小説 川崎サイト

 

藁策


 堀川吉常は隠居同然の暮らしをしていた。家老職からも下ろされた。しかし、老臣であり、重臣であることには変わりはない。
 ただ、お役がないだけ。これは政敵にやられたのだ。はめられたといってもいい。しかし、周囲はそれほど気にしていないようで、堀川吉常なら、そんなこともするだろうと、思っていたのだ。
 それほど重要な人物ではなく、軽く見られていた。堀川にも政の方針があるのだが、いささか古臭い。それにもう時代に合わなくなっている。だから、政敵に蹴り落とされても、別段影響はなかったのかもしれない。
 しかし、その政敵達も政に行き詰まっていた。古いやり方を捨て、刷新したのだが、やはり問題が出る。
「堀川様、是非とも復帰をと、大殿も言われておられます」
 その大殿、既に家督を譲っているが、まだまだ力はある。堀川とは兄弟のように育っている。大殿の側近中の側近だった。
「わしはもう古い」
「いえ、いえ、その頃の方がまだましだったのですよ」
「ましか」
「はい。若い者の中にも、堀川様の再評価をやっています」
「他に手がないからじゃろ」
「藁策と呼んでおります」
「藁にでもすがるというあの藁か。しかし、わしは古臭い」
「いえ、意外と新しいのです」
「ほほう。それはどういうことじゃ」
「ただの古きに戻るのではなく、堀川様がやられようとして、出来なかった小とがあるでしょ。そこを若い者は言っているのです」
「あれは中途半端で、まだその策は出来ておらなんだ」
「その策、もう一度再考されては如何ですか」
「難しいんだ」
「あとは若い者がやります。その妙策、是非、ご指南を」
「妙策、奇策ではないぞ」
「ああ、はい」
「その下準備に、堀川塾を作りたいと思います」
「いや、もういい。わしは出過ぎた。だから打たれたのじゃ。また、同じこと」
「堀川様ではなく、若い者がやります」
「表に出なくてもいいのじゃな」
「はい」
 開塾した堀川塾。学問所のようなものだが、誰が聞いても古臭いことを教えていた。もう終わっているような話。聞いていると、当たり前のことを言っているだけ。
 確かに妙策、奇策ではない。
 これが意外と忘れられていたのだろう。
 
   了

 


2022年6月19日

 

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