小説 川崎サイト

 

妖雲


 妖しげな雲が出ている、妖雲。何か不吉なことが起こりそうな気もするが、不吉とは吉ではないだけのこと。吉は普通に比べて、善い方。だから吉以外の目が出るのが不吉。実際には悪い方に出るとされている。
 吉ではなくなるが、大吉かもしれない。吉ではないというだけなら、そっちが出ることもあるが、そんなことは普通考えない。
 ただ、不穏、不審な動きが天にあり、それを不吉だとしても、天気が変わり、空模様が妖しげになることと、天の下のこととは関係なさそうだが、何かあると思ったときから不吉が入り込むのかもしれない。
 そうでないと、その空の下の人々全員が不吉なことになるはず。全員は無理だろう。
 天地異変の大災害でも起これば、個々人や社会も面倒なことになるが、空に暗雲が立ち籠めているだけでは、それなりによくあること。
「受け取る側が問題じゃな」
「見なければ、それまでなんですね」
「また、見ても、素知らぬ顔をしておればいい。天気が悪くなる程度でな、それ以上引っ張らない」
「でも妖雲が立ち籠めたとき、何が起こるのかが分からないのですが、もの凄く良い気運になってくることもあると聞きましたが」
「善い事が起こる前兆。それは目出度いが、その善いことがそもそも禍の種だったりし、その後、悪くなるやもしれんぞ。ここは悪いことが起こった方が素直じゃ」
「それを素直というのですか」
「その妖雲、悪いことの前触れと感じたのなら、それを素直に受け取るという意味じゃ。そう感じたのならな」
「でも、何も感じなければ、何も起こらないわけですね」
「感じても感じなくても、色々なことが勝手に起こるもの。妖雲のせいではないわ」
「私は今、調子がいいのですが、そのうちに高転びしそうな気がしているのです。だから妖雲を見て、ああ、そろそろかなあと感じたわけです」
「あ、そう」
「説明を」
「そのままじゃないか。説明の必要はない。感じたのなら仕方なかろう。感じたことを素直に受け取ればいい。難しいことじゃない」
「そうですね。そのままですから」
「お、雨が降り出したわい。あの妖雲めい、小便を垂らしたな」
「き、汚いですね」
「感じたままじゃ」
 
   了




2022年6月24日

 

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