小説 川崎サイト

 

油と砂糖の店

川崎ゆきお



「よく見かけるファーストフード店なんだがね」
「はい」
「ドーナツ屋だ。三日に一度ぐらい行ってた」
「甘いものがお好きなんですね」
「油と砂糖だよ」
「ドーナツのことですね」
「揚げパンだね。それに砂糖がたっぷり振りかけてある」
「アンドーナツならもっと凄いですよ」
「アレはキツイね」
「そのドーナツショップがどうかしましたか」
「中で食べられるんだがね」
「有名なチェーン店ですね」
「ああ、他の町でもよく見かけるからね」
「それで?」
「それで、三日に一度は食べに行ってた。実は喫茶店が近くになくてね、ドーナツ屋を喫茶店として使っていたんだ。最初のころはね」
「セルフサービスでしょ」
「それは問題はない。それで安くなるんならね。しかし、ドーナツも気になって食べてしまうんだ。逆に高くつくよ」
「はい」
「話と言うのは他でもない。客がいなくなったんだ」
「はあ?」
「医者から甘いものと油ものを注意されてね。ドーナツも食べなくなった。しかし相変わらず三日に一度行ってるよ。コーヒーだけ飲んでる」
「客がいなくなったとはどういうことですか」
「それが分からないんだ。この前まで満席近いほどでね。まあ、時間帯にもよるんだけど、客の姿がない日はなかった」
「そんな時間帯もあると思いますよ。そんなときは掃除するチャンスなんですよ」
「そのチャンスが行く度にあるんだ」
「油と砂糖が原因ですか?」
「そうじゃない。油と砂糖で客が来てるんじゃないか」
「そうですね…じゃ、どうしてなんでしょう」
「徐々に減っていったね」
「原因は分からないのですね」
「客が少ないと、何かあるのかなあと思うものだよ。ある日、私一人になった。ここは危険なのではないか。ここにいてはいけないのではないかと考えた。不気味じゃないか。この静けさが」
「それで今は」
「前は通るが入らないよ」
「客は?」
「いない」
「原因が分かりにくですねえ」
「私の場合は、健康管理が理由じゃないよ」
「じゃ、何でしょう」
「客が引いていったからだ」
「ですから、その原因は?」
「分からない」
 
   了


2007年10月29日

小説 川崎サイト