小説 川崎サイト

 

小夏


「暑いですねえ、まだ梅雨前なのに」
「この時期、暑いのです。真夏とは言いませんが、小夏です」
「それは可愛いですねえ。しかし真夏並みですよ」
「まだ、暑さに慣れていないので、暑く感じるだけですよ。小夏はまだまだ序の口。しかし、一瞬ですよ。この時期。すぐに梅雨に入り、気温は下がるというよりも雨で陽射しが来ないのでね。それほど暑くはありませんが、蒸し暑い」
「じゃ、梅雨の晴れ間はどうですか。これも暑いような気がしますが」
「梅雨前の小夏よりも暑いでしょうねえ」
「なんていいます」
「さあ」
「じゃ、ただの梅雨の晴れ間」
「雨間ともいいます。しかし雨がやんでいるだけで、晴れて陽射しが来ているとは限りませんがね。たまに晴れてカンカン照りの暑さになることもあります。雨間にしては厳しい。これは真夏が覗いているのですよ。真夏の本性がね。だから、小夏よりも強いです」
「じゃ、真夏じゃなく、大夏ですねえ」
「そう、子供と大人の違い。しかし、この真夏、大人だけに勢いが下がり出す。だから暑さでは小夏には勝りますが、勢いは小夏の方が強い。まだ先がありますからねえ」
「真夏なのに、勢いが下がるのですか」
「もうそこがピークでしょ。だから、お盆前あたりから、そろそろ秋が入り込み、もう勢いがなくなっていく。当然、その時期は残暑。暑中見舞いじゃなく残暑見舞い」
「歳時記の世界ですね」
「まあ、そういう決まり事はベース。狂いますがね。一応ベースは必要でしょ。例年はこうだった、ああだったというようなね」
「今日の暑さは小夏だったんだ」
「他所で言わないようにね」
「梅雨前の暑さが小夏なんでしょ」
「小夏といえば女性の名前でしょ。それに私が勝手に付けたこの時期の名前なので、他では通用しませんからね」
「ああ、はい、分かりました」
 
   了



2022年6月27日

 

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