小説 川崎サイト

 

神仏通り


 久内町は少しややこしい場所で、濃い場所。
 しかし、普通の人が素通りした場合、別段変わったところではないが、町は古く、近くに神社や寺も多い。寺町のように、そこに集められたのかもしれないが、間隔を置いて建っているので違うのかもしれない。
 神社も村時代の村社の他に、あまり聞いたことのない神様の社があったり、お稲荷さんが別にある。これは村の神社並みの規模で祠ではない。朱色の鳥居も立派なもので、朱よりももっと赤い。村の神社は石の鳥居だ。
 ここに妖怪が通る。ということで、妖怪博士は乗り込んだのだが、まさか妖怪を捕獲出来るわけではないので、網とか縄とかは持ってきていない。それに大きさが分からないが、等身大の人型だろう。
 様子を聞くと、神通り、仏通りらしい。
 そういう通り、道があり、神社と神社を結んでいたり寺と寺とかを結んでいたり、また寺と神社とを結んでいたりする。
 その通りに神や仏が通る。神通りというのは実際にある。通ったりしているためだろう。
 しかし、久内町にはそんな伝承はないし、寺社もそんなことは知らないとか。だから由緒はない。
 罰当たりなことに、それをやっているのは妖怪らしい。神仏に化ける。畏れ多いことだ。バチが当たるだろう。しかし、もう既にバチが当たったあとなのかもしれない。
 妖怪や狐や狸なら、そんなことをしでかしても許されたりする。狐狸の仕業なら仕方あるまいと。
 さて、神通りに立った妖怪博士、そこで見張っていても神や仏が始終歩いているわけではない。そして、仏の場合、等身大の大きさの仏像が歩いているのだろうか。仏像の面を付けた行事もある。
 問題は神だ。これは流石に姿がないように思われる。もし姿を現すとすれば、神主のような服装だろうか。
 どちらにしても神仏に変装した妖怪が、向こうの神社や寺から、こちらの神社や寺へと通うらしい。目的があるので、寄り道はしない。
 行ったり来たりしているだけのことだと思われるが、そう思いながら通りを見ていると、そういうものが出そうな雰囲気がある。
 ちょっと古びた農家の土塀とか、竹藪とか、雑木林とかが続いている。ロケーションとしてはいい。新築の今風なプレハブのような家がないためだ。
「どうなんでしょう博士」
 お供の担当編集者が聞く。まあ、彼が強引に連れてきたのだ。
「どうもこうもない。所謂都市伝説じゃろう」
「どうして、そんな伝説が出来たのでしょうねえ」
「伝説と言うには浅い。昔からの言い伝えではなさそうじゃ」
 これは既に近くの寺社に聞いていることで、そんな話は全くないとか。
「しかし、今日は暑いなあ。既に真夏。道が真っ白で、目が眩む」
「そうですねえ」
「こんなとき、神主や巫女、または坊さんなどがポツンと向こうから歩いてきたら、ちょっと不思議な感じになるだろう。寺社が多いからといって始終歩いておるわけではないはず」
「神主や巫女が神の正体」
「いや、間違ってはおらん。神が降りてくるのだからな。また神の代わりに神主や巫女が人々にメッセージを伝えたりする。中継ぎ役だ。その場では、神と同格かもしれんなあ」
「仏も通っているらしいですが、そちらはどうなんでしょうねえ」
「神通りだけでいいものを仏を通わすのは足を出したと同じ。蛇足というもの。ついでに仏も通わせてやれとなっただけのことじゃろう」
「仏顔の人が歩いているとか」
「まあ、何でもありじゃ」
「でも、神仏が行き交う通り。いいじゃないですか」
「そのわりには見に来る人がおらんなあ」
「でもネットでは評判ですよ。盛り上がっていました」
「しかし、現場はシーとしておる」
「そんなものですよ」
「暑いので、もうこれぐらいでいいだろ」
「もし、ここで本当に出たら白昼夢ですねえ」
「出ておらんが、面倒臭いので、出たことにするか」
「いいのですか、博士」
「妖怪など、所詮はそんなものよ」
「あ、はい」
 
   了
 





2022年7月2日

 

小説 川崎サイト