小説 川崎サイト

 

岩屋の神


 岩屋十三家という家々がある。上坂部村の人達で、山の持ち主。十三家の共有地で、村から川を遡ったところから少し先にある。
 広くはない。その手前までは入会権というのがあり、これは村の人々なら殆どの家が持っている。当然村人ではないと駄目だが。
 その奥にある岩屋という場所が、十三家だけが出入り出来るとされている。別に鉱山ではない。山林資源も言うほどではない。それに狭い。
 上坂部村の奥にはもう村はない。しかし岩屋という地名はある。山の名ではなく、文字通り岩の家。大昔は、そんな洞窟を家にして住んでいたのかもしれないが、その岩屋は少し違う。
 川は谷間を流れており、左右とも山が迫っている。その右側の山をよじ登ったところに洞窟がある。ただの洞穴だが、穴への登り口に柵があり、入れない。
 しかし、乗り越えられることは出来るが、岩屋の入口に頑丈な木戸がある。そして入口の柵もドアのような木戸周辺には、飾り物がある。いずれも縄だろうか。それに布が付いており、風が吹くとひらひらする。
 その洞窟の戸は鍵があれば開く。その鍵を開けるには岩屋十三人衆の許可がいる。それらの家は上坂部村の人達。
 神の岩戸ではなく、神の岩屋。神が住む洞窟とされているが、これは神の牢屋なのだ。この神は山の神とされている。
 当然、それらは作り事で、正体は分からない。ただ洞窟は確かにあり、大した奥行きはないが、人が住めそうな場所。
 ここは入ってはいけない聖地とされており、年に一度、夏至の日だけ一般の人もお参り出来るとされているが十三家の許可がいる。
 この岩屋十三家は上坂部村の人達だが、家が途絶えたりすると、一家増やす。一人ではなく、家単位。一度十三人衆になると、世襲制なので、家が続く限り、そのままだ。
 岩屋に閉じ込められた山の神様をお慰めするというのが、この十三家の役目だが、これは何でもよかったのではないかと思われる。蛇神でもいいのだ。
 最近まではこの十三家が村の有力者で、村を仕切っていたらしい。
 
   了
  





2022年7月3日

 

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