小説 川崎サイト

 

大闇小闇


 今日は小闇だな、と近藤は思った。近藤だけが思っていること。
 そして近藤だけの言葉。小闇とか中闇とか大闇とかはない。全て闇だ。闇なので最初から何も見えないはず。
 しかし闇夜でも空は見えている。星がなくても。だから真の闇だけが闇ではないが、暗がりの道を歩くには明かりがいるだろう。夜目が利く人なら別だが。
 また目はなくても音波などを出し、より立体的に把握出来る蝙蝠などもいるし、第三の目玉が頭の奥にあり、そこで見ているという話もある。松果体だ。
 そんな話ではなく、近藤の小闇はただの形容。少し暗い。
 当然部屋の中や外が暗いわけではなく、カンカン照りでも小闇がある。暗いのだ。そのため風景も少し照度が落ちる。
 そして中闇や大闇があるらしいので、気持ちがもっと沈んで暗くなるのだろう。空は晴れても心は闇状態。
「小闇なので、ましなほうか」と近藤は呟く。人がいない歩道。少し声が漏れているが、余程近くに人がいないと聞こえない。
 ましなのである。小闇なので。これは良いことかもしれない。大闇に比べ。
 しかし、闇ではないときも当然あり、そちらの方が多いかもしれないが、そんなときは普通。風景も普通。ただ、良いことがあったときは風景も明るくなる。流石に夜でもよく見えるというわけではないが、ネオンがやけに明るく見える。
 そういう良い時は気にならない。だから明るい時のレベル分けやランク分け、クラス分けはない。
 要するにその日の近藤は心配事があった。それが小さい目なので、ましな方だと言っている。
 一寸したことで、解決する問題。だか、嫌なこと、不快なことには変わりはないが、そんなものはゴロゴロ転がっているだろう。ただ、いちいち気にしていないだけ。
 一寸した小闇。これは満更悪くはないようで、こなしやすい暗さ。近藤はその微妙なところを言っている。軽い暗さなので、余裕がある。
 こういうのは一寸良いことがあると掻き消えるだろう。先ほどまでいた小さなオバケが消えるように。
 
   了

 






2022年7月17日

 

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