小説 川崎サイト

 

当て推量


「今月は不漁ですなあ」
「そうだな。先月、元気がなかったので、今月は一気に来るかと思うたが、そうではない。何じゃろう」
「暑い月なので、休んでいるのでは」
「休みはないはずじゃ」
「しかし、何処かで休まないと続きませんよ。それに暑い時期、ちょうど夏休みのように」
「まあ、先方にも都合があるのじゃろう。しかし、ふた月続けて元気がない。これは何かあったのではないかと思わぬか」
「さあ、先方の一寸した事情でしょ」
「しかし、毎月毎月、勢いがあった。よく見ると、隔月じゃがな。いい月と、まずまずの月が交互。しかし、今回はまずまず以下の月の翌月がさらによくない。これは異変があったと見るべきではないのか」
「だから、聞けば、単純な話だったりしますよ。一寸手を緩めただけなんでしょ。たまにはそういう時期があってもいいんじゃないですか」
「今までそういうことはあまりなかった。だから心配しておる」
「でも、最低限のことは果たしているようですから、問題はないかと思われますが」
「その問題ではなく、内部に何らかの変化があったのではないかと思うんじゃ。何か思い当たることはないか」
「去って行った武将がいます。有望な人でしたが、その後、噂に上りません。さらに最近は姿を見せないとか。これはいなくなったようです」
「そうか、岩田殿じゃな。将来を担うにしては、少し年をとりすぎておったが、まだ隠居する年ではない」
「それに代わって、新たに召し抱えれられた者がいます。そちらの活動が今は目立ちます」
「それじゃ。勢いがあると感じたのは、そのためじゃ。岩田殿もいいが、少しとうが立っておる。それに最近召し抱えられたという者は、どれも元気で勢いがある」
「しかし、それも静まりました」
「そうなんじゃ。先月と今月な」
「しかし、また新たな者が召し抱えられております。海の者とも山の者とも分からぬ者ですが」
「そういう者に乗り換えるつもりだったのが、何かあり、逆に勢いが止まったと見るか」
「さあ、先方の事情など窺い知ることは出来ません。下手な憶測は無用かと」
「憶測か。そうじゃなあ。当て推量じゃからのう」
「先方の内部事情など、分かりようがありません。それ故、見当違いかもしれませんので、ここは動かない方がよろしいかと」
「そうするか」
 
   了


2022年8月6日

 

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