小説 川崎サイト

 

楽戦


 白岡城。小さな城。小城。以前は砦だったが、今は城主がいる。これは正式な城主ではなく、任されている城。だから、杉並家の中の部署のようなもの。
 砦以前は白岡館という、館があった。大きな屋敷だ。この地の豪族が治めていた。今はいない。杉並家が取って代わったため。
 その豪族、逆らったので、滅ぼされた。もし従っておれば、この地を以前のように任されたはずだが。
 白岡の豪族は縁の薄い縁者を残しただけで、生き残ったものは他所へと逃れた。
 当然、郷内の百姓達は紐付きではないので、そのまま残った。戦っているのは武家で、武家だけの戦いのため。それに百姓まで追い出すと、年貢が取れなくなる。
 さて、役人のような感じで、白岡城の城代として着任した立花氏は、土地との馴染みはない。しかし、百姓達にすれば、年貢の払い先が違うだけで、少しでも軽くなれば御の字で、また足軽として村人を出すのは、拒めば何とかなった。
 豊かな村では兵を出す代わりに銭を出した。これで兵を雇えということだ。また雇兵の方が強い。戦慣れしているため。
 そんな状況の中、敵が入ってきた。白岡が要地なのは隣国からの進入口のため。一山越えれば隣国で、まともな道を辿れば、白岡郷を通ることになる。
 それなりの大軍だ。だから、まともな道でないと、馬も荷駄も進めない。
 その街道の横の岡に白岡城がある。これがあるので、街道を行くのが危険。つまり行軍中、白岡城から兵が出て襲ってくるためだ。
 白岡城は砦規模から城規模になっているので、簡単には落ちない。だから、隣国は無視して、通り過ぎようとしたのだ。
 白岡城代立花氏に打って出よとの命が本城から来ている。
 決して城を任されているわけではないのだ。従うしかない。
 隣国から山を越えて、こちらへ向かっているとき、敵側の使者が来た。
 何もしなければ安泰と。そして、この白岡郷をやると。城代ではなく、城主になれる。
 要するに寝返れば、褒美が貰えるという話だ。
 城代は立花一族と相談の末、受けることにした。城代の家来と言ってもしれている。城に詰めているのは本城の者が殆ど。これが目付のような役をしているので、懐柔しないといけない。
 しかし、これは簡単に従ってくれた。ここで打って出ても負けるだけ。また、そのことにより、城を囲まれるだろう。数千の敵に対し、城には百もいない。本城からの援軍が来る前に落とされるだろうし、また本城から援軍か来るかどうかも分からない。
 それよりも、何もするな。という敵からの要請の方が楽。戦わずに済む。
 これで、ころりと白岡は転んだが、この当時、よくあること。
 もし、この白岡の城代が本城の城主の縁者だったら、抵抗したかもしれない。今の白岡城代はそれほどの縁ではない。いわば辺境任務。
 それで敵兵は白岡郷に入って来たのだが、村々の代表も揃って挨拶に来た。
 敢えて戦わないといけない義理もないのなら、楽な方を選ぶのが人情だ。
 
   了






2022年8月20日

 

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