小説 川崎サイト

 

バトンタッチ


 以前は出来たのに、今は出来ないことがある。状況が違うためだろう。
 しかし、以前は出来なかったことが今はなら出来るというのもある。徳田はそれでバランスが取れているのではないかと思った。
 これは出来ていたものが出来ないのがしゃくに障るというか残念なので、プラス面はないかと考えたとき、それを思い付いた。これもやはり状況の違いだろう。内も外も。
 ただ、今なら出来ることは、出来なくなったことに代わるものではない。もしそうなら、出来ているのだ。似たようなことで、形を変えたりして。
 ところが新たに出来るようになったことは、以前にも出来たことが多い。そのため、やろうと思えば出来たこと。そのため、新たなものではなく、何だ、これか、と思うようなものばかり。
 当時の徳田は、あまり興味はなかったし、そんなことで時間を潰したくなかったのだろう。しかし、手付かずのものが結構ある。手を付けようと思えば付いたこと。
 こういうのは暇になったときに、出来るのかもしれないが、やりたくないこともある。やるのはいいのだが、面倒なことになりそうだとか、疲れるとか。それがその先の価値に繋がるものなら何とかなるが、ただただやるだけのことなら、やっても仕方がない。
 それでも徳田は、今まで出来なかったことが出来るので、それなりに新鮮だ。しかし、以前は出来ていたものに比べると、規模が小さく大人しい。だからやりがいもそれほどない。
 ということは、スカしか残っていないクジを引くようなもの。同じスカでも少しはましなスカが出ればアタリに匹敵する。
 また、今まで出来ていたことから遠ざかると、もうあまり未練は感じなくなる。忘れてしまうわけではないが、残念に思うのは出来なくなったときで、その後、その気持ちは他へ行くのか、もういいか、となる。
 また、今まで出来ていたものにも飽きてくるので、出来なくなっても、まあいいかとなることが徳田には多い。
 今まで出来ていて出来なくなったものの代わりのもの。これが何になるのかを探すのも、いいのかもしれない。
 
   了






2022年8月21日

 

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