小説 川崎サイト

 

たぬき坂


「きつね坂は何もありませんでしたねえ。遠いところまで出掛けたわりには」
「そうじゃな、フェリーでの寝心地は好かった。あの微妙な振動で、とんでもない夢を見てしまったがな」
 これは前回の赤間きつね坂の話である。海沿いの階段路地に迷い込むと、妖怪が出るとかの話だったが、殆どの家は廃屋で、その跡地は段々畑のようになっており、野草が目一杯育っていた。
「今回、また投稿がありましてね。たぬき坂です」
「もうよかろう」
「そうですねえ。真似ですねえ」
「しかし、ちょいと見せてくれ」
「はい、プリントアウトしたものがここに」
 これは編集部の掲示板で、投稿が出来る。そこで怪しい話などが上がっているのだが、殆どは嘘。だから嘘の付き合い。こちらの方がきつねやたぬきの化かし合い状態で、きつね坂やたぬき坂は、この中にあるようなもの。本当の現地には何もなかったりする。
 妖怪博士はたぬき坂の投稿を見ていたが、きつね坂とほぼ同じだ。しかし、海沿いではなく、里山。内陸部の奥まったところだ。ここなら一泊しないでも行ける距離。
 内容は里山と市街地の間にある坂道で、ここでたぬきに騙されるらしい。村から山への入り際、そういう話なら全国至る所にあるだろう。
 これはたぬきでもきつねでもいい。ただ犬や猫では合わない。飼い慣らされたものではなく、またペットとして飼うのは難しいのかもしれない。ただ人に懐く狸や狐はいるかもしれない。いずれも餌、食べるものに釣られて。
 これを餌付けというのだろうが、滅多に懐かないはずなので、そちらの方が野生味があり、人を騙すとか、化かすとかでは合っている。野生過ぎても駄目で。その中間がいい。
 イタチもきつねやたぬきに次いで、そういった類の動物だ。山奥にいるのではなく、人里近くにいたりする。だから、日常的に目にすることが多い。
 イタチなどは市街地にもいる。昔なら村内に住んでいたりする。縁の下とか、床下とか。背が低いので、潜り込みやすい。
 今でもイタチは住宅地にもいるだろう。たまに横切ったりする。
 さて、たぬき坂の話。これはもういいだろうと妖怪博士も考えた。しかし、本当にあったことを投稿したのかもしれないが、ありふれすぎた話。
 怪異談としては弱すぎる。しかし、嘘だと決め付けるわけではないが、取り上げる気にはなれないのだろう。
「じゃ、これはやめておきますか」
「いや、たぬき坂、そのものが見たい。きっと何でもない坂で、何でもないありふれた平凡な話になるやもしれんが、その方が落ち着いた感じでよいかも」
「え、じゃ、行くのですか」
「一寸騙されてみようじゃないか」
「あ、はい」
 
   了

 


 
 


2022年9月5日

 

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