小説 川崎サイト

 

妖怪大目玉


「台風シーズンなので、台風の妖怪について、お願いします。博士」
「台風そのものが妖怪だろう」
「それではそのままです」
「じゃ、目だな。台風の目だ。本当に眼球が渦の真ん中にあると、まさに妖怪。瞼やマツゲまであると、瞬きをするが、きっとカッと見開いたままだろう。見たことはないがな」
「それは絵にしやすいですねえ。太陽や月に顔が画かれているように」
「三日月のような顔の人もいるだろう。顎の尖った」
「今回は台風でお願いします」
「台風の目は台風だけを差すものではなく、何かの渦中。災いの渦中というだろう。そのど真ん中、中心かもしれん。これも目玉がある。禍と、渦は似た漢字じゃろう」
「あの人が台風の目だったんだ、なんていいますからねえ」
「あまりいいことでは言わない。災難、厄介事、まあ、禍ごとじゃな。台風は動いておる。だから、目も移動しておる。渦を巻いてな」
「動的なんですね」
「しかし、その渦、災いは長くは続かん。半日で通過するだろう。影響は数日あるかもしれんがな。だから継続性はない」
「妖怪の話を」
「うむ、だからこういうものはじっと耐えて待てばいい妖怪でな。何もしなくてもいい。相手は妖怪だ。何ともならん。通過していくのを待つだけ」
「世の中の禍ごともそうですねえ。一過性のものです」
「しかし、災難は忘れた頃にやってくるとも言うがな」
「はい、それよりも眼球のある台風の妖怪の話をもっと」
「台風が上陸し、町の上を通過した時、その真下は静からしい。台風の目に入るとな。これは滅多にそんな体験はないだろう。そのとき、真上を見ると目があると、これは怖い。しかし、それは青い目かもしれんなあ。渦の真ん中は穴が空いているようなものなので、上空が見えるのだろう」
「本当ですか」
「見たわけでも調べたわけでもないが、想像じゃ」
「でも瞬きをしたりとかはどうなります」
「渦なので始終動いておる。だから目を細めたり見開いたりしておるように見える。見た覚えはないがな。くどいがな。鳥なども巻き込まれるらしい」
「はい」
「台風に化けた巨大妖怪はどうでしょうか」
「大入道のようなものじゃな。入道雲の妖怪じゃ」
「じゃ、台風のような目玉が下を睨み付けているような妖怪は如何でしょう」
 妖怪博士の担当編集者の方が妖怪を作るのが上手いようだ。
「まあ、何でもかんでも妖怪にしてしまうのは如何なものかな」
「あ、はい」
 
   了

 


2022年9月22日

 

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