小説 川崎サイト

 

黒姫城

 
 土地の人だけが黒姫城といっている城がある。城跡だが、山にかかる山城で階段や石垣はそのまま残っている。本丸に上がったところに神社が建っているが、何を祭っているのかは明快ではない。
 つまり、はっきりとは明示していない。おそらく黒姫を祭っているのだろう。土地の人なら知っていること。
 このあたりは黒崎という豪族が治めており、その居城と言うよりも、いざというときの逃げ場所として建てられた城郭。その城で住んでいるわけではない。
 黒崎館は盆地内の真ん中にある。山城で住んでもいいのだが、上り下りが大変。
 登り口は大手門といっているが、その規模ではなく、多少は抵抗出来る程度。そこは破られてもいい。問題は門に入ってから、長く続く石階段。急坂に強引に階段を付けたもので、非常に上がりにくい。それが目当てなのだ。
 ここを上がっていく時の被害を考えれば、登る気になりにくい。階段の左右は切り立った林で、そこから城兵が矢を射る。また階段の上からも矢が飛んでくる。気勢を失った敵にどっと駆け下りて、下まで落としてしまう。
 ただの豪族の城。大きな勢力なら一踏みで踏み潰せるだろう。しかし、実際に攻めてみると、かなり厳しい。
 敵は階段だけの戦いだけで終わり、その上の門にまでいけない。当然本丸の横か背後からの攻めも考えられたが、そちらの方がきついことになる。正面突破の方がまだまし。
 しかし、黒崎の当主は戦中に病死。跡取りは勇敢に戦い深追いしすぎて討ち死。残るは姫君だけ。
 それでも、これ以上城への攻撃はきついので、和睦を敵は申し出た。黒崎側は受けた。
 それで、門を開け、敵の武将を迎え入れた。ところが、これは策略で、敵兵がどっと本丸に乗り込み、黒崎一族を皆殺しにした。
 最後まで戦った姫も討ち死。
 その後、黒崎城は廃城となる。征服した勢力にとって、もうここに城を置く必要がない。
 それからかなり立ってから、廃城に亡霊が出るという。あの姫の亡霊で、黒崎の姫なので、黒姫。そして城も黒姫城と呼ぶようになる。黒崎衆のあとを継いだのが姫なので、城主は黒姫様となる。
 しかし、城主であり、黒崎勢を率いていたのは数日だろう。すぐに和睦し、そしてだまし討ちに遭ったのだから。
 今も黒姫城は階段と石垣だけは残っており、先ほど触れた黒姫神社には、花が絶えない。まだ、黒崎の縁者が、この一帯の村々に残っているためだろう。
 
   了




2022年10月3日

 

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