小説 川崎サイト

 

ネットの恩恵

川崎ゆきお



「インターネットは便利だねえ」
 岩田はネットの恩恵を語り出した。
「この書類、ネットでできてしまうんだ。用紙に記入すればよい。この用紙を窓口でなかなか出してくれなかったんだよ」
「何の書類ですか?」
「それは言えないが、申し込みの書類だよ。カウンターで書かないといけない。それがどうだ、ネットなら自分のパソコンで記入できるんだよ。ゆっくりとね。しかも今日でなくてもいいんだ。誰も急がす人はおらん。お茶をのみながら、ゆっくり住所とかをタイプすればいいんだ。いや、こんなものはコピペでいける」
「岩田さんはパソコンが使えるから有利ですねえ」
「この年で使える友達はいないよ。まあ、友達もいないけどね。ああ、いるいるネットではいるんだ。友達は二十人はいるね。友達登録をしてくれたんだよ」
「活用されて何よりです」
「書類の話だがね、用紙そのものを落とせるんだ」
「ダウンロードですね」
「そうそう、それをプリンアウトして、書き込んで、捺印して、郵便で送ればすんでしまうんだ。これは楽だよ。まあ、手書きだけどね。同じ用紙なんだな。これじゃカウンターの奥から大事そうに出してきた用紙の値打ちも下がるよ」
「確かにネットが普及してから、手続きも簡単になりましたねえ」
「年寄りほどネットは便利なんだ。出掛けなくてもすむからね。散歩での運動とは意味が違うんだよ。街に出るのが億劫でね。ついつい出そびる」
「でもお年寄りほどネットはなさっていないようですよ」
「仕事で使うわけじゃないからね」
「それもありますが、操作が大変だとかも」
「そんなものマニュアルに手順が書いてあるんだから、読めば分かるだろ」
「なかなかマニュアル書は読まれないようです」
「日本語なのにねえ」
「聞き馴れないカタカナや英文字が出てきますから、それで投げ出すようですよ」
「まあ、余計なもの覚える記憶容量がないんだよ。増やすより減らしたいんだろうね。余計なことはできるだけしたくないさ」
「岩田さんの体験談、講演のような感じで、話してもらえませんか」
「わしがか。特に特技などないぞ」
「パソコンの恩恵について、お年寄り相手に話してもらいたいのです」
「最大の恩恵はアレだろ、アレ」
「何でしょうか?」
「男なら真っ先に見に行くじゃないか。わしのパソコン操作のテクニックはそこで磨いたんだ」
「その話以外でお願いします」
「ああ、分かったよ」
 
   了


2007年11月09日

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