小説 川崎サイト

 

へのへの妖怪

 
「へのへのもへのの顔がパラパラ漫画のようにパラパラと動き出すようです。間のデーターがないのか、その処理がないのか、動きはぎこちないらしいのです。止まっている時もあるし、もう動かないのかなと思っていると、今度は早い目に動き出すとか」
「うむ」
「(へ)は眉、(の)は目玉です。その(へ)が笑っていたり、また目玉もキョロキョロ動きます、(も)は鼻で、これもあぐらをかいたり伸ばしたり。(へ)は口です。しかし笑ったりします。最後の(の)は、それらを大きく囲む(の)です」
 妖怪博士は眠そうに担当編集者の話を聞いている。どうも案山子の妖怪らしい。
「どうでしょう」
「何が」
「何がじゃなくて、これ、どうします。そういう書き込みがありました」
「案山子は呪術系じゃな」
「そんな妖怪はいますか」
「一本足で、への字の顔でも人型。ややこしいものが入りやすい」
「じゃ、案山子が妖怪なのではなく、その中に入っているものが妖怪なのですね」
「しかし、そんな簡単にあらぬものが入り込めるのなら、世の中、妖怪だらけ。だから、目の錯覚じゃろう」
「自分でパラパラアニメをやっていたのですか」
「じっと見詰めていると、動き出すよ」
「ああ、その範囲内ですか」
「目鼻や口が、顔からはみ出ることはないだろう。それに頭部までは動かないはず」
「じゃあ、錯覚でいいのですね」
「しかし、その目撃者、なぜ案山子の顔などじっと見詰めておったのかなあ。そちらの方が不思議じゃ。田んぼに案山子が立っておる。普通はそれをちらっと見て素通りだろう。立ち止まって見詰めるとしても、じっと見ていないとへのへの文字絵も動かんぞ」
「しかし、案山子の顔が福笑いのように怒ったり、笑ったりとか悲しんだり泣いたりすると、確かに怖いですねえ」
「案山子の顔をじっと見詰める心境。目撃者は何を考えておったのだろうなあ」
「そっちへ持って行きますか」
「その心情が案山子に反映し、動きとなって現れる。ということは考えにくいが、への字の案山子に魅了されたのかもしれんな。もし、その案山子が妖怪ならな。への字が動くというのはどうでもいいことで、案山子妖怪の術中に填まったのかもしれん。そのあとの案山子の動きなどは、目撃者次第」
「どうしましょう。返事のメッセですが」
「君が書くのか」
「はい。妖怪博士談として」
「まあ、あまり物を見詰めん方がいいと答えておきなさい。同じ物をじっと見ていると、分けが分からんようになる」
「退治方法は」
「見ぬこと」
「簡単ですねえ」
「へのへの文字の案山子の顔のようにな」
 
   了



2022年10月18日

 

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