小説 川崎サイト

 

荒木の夜叉

 
「荒木の夜叉ですが、いつ退治に出ます」
「今は調子が悪いので、すぐには無理だ」
「お悪いので」
「一つならいいがな。二つ重なった。これは用心した方が良い。そんな化け物退治などやっておる余裕はない」
「どのようにお悪いのですか」
「長引くかもしれないのが一つ。これはその入口、とば口。もう一つはちと無理をしたので上手くいかなかった。これは良い時ならいくのだがな。だから調子が悪いのだろう。無理も悪いが」
「はあ」
「それで気が進まん。荒木の夜叉など今すぐ退治する必要はなかろう」
「村人が怖がっています」
「何村だ」
「四ヶ村」
「多いなあ。そんな広範囲に出るのか、その夜叉」
「はい」
「同じ場所か」
「四ヶ村を貫いている村道です」
「荒木山の夜叉だろ」
「それが下りてきて、村人を襲います」
「困ったものじゃなあ。役人では無理か」
「何せ化け物なので、刀剣弓矢火縄でも無理です」
「じゃ、石でも投げれば良いじゃないか」
「同じことです」
「仕方がないのう。わしが出ないとだめか」
「それで、城からも助けを求めています」
「期待されておるようじゃのう」
「はい」
「しかし、調子が良くない。体は動くのじゃがな。妖怪相手では気力を使う。それが足りん」
「そこを何とか」
「分かった分かった。二箇所から要請されておるのなら、行かねばならぬだろう」
 その妖術の達人は武家の姿をしているが、僧侶だ。しかし、過去は武士。勝手に頭を丸め、法衣のようなのを着ているだけ。
 この達人の方が余程妖しい。
 四ヶ村を貫く道に入った時、荒木の夜叉はすぐに姿を現したらしい。
「出たな」
「見えませんが」
「姿を消しておる」
「でも、見えるのですね」
「わしにはな」
 妖術の達人が杖と言うよりも、太くて重そうな棍棒、大声を上げながら、それを振り回す。
 村人も出てきて、それを見ている。
 かなり長い間、戦っていたようで、達人はもう汗だく。
 ぜいぜいと息をし、膝をついてしまう。
「終わったぞ」
「退治なされましたか」
「ああ、調子が良ければ、もっと早く片付くのじゃがな」
 その後、荒木の夜叉は出なくなった。
 
   了



 


2022年11月3日

 

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