小説 川崎サイト

 

犬棒

 
 少し早いが、良いものと遭遇した。これはいけるかもしれないと思ったのが、半信半疑。もう少し様子を見ないといけないが、これで決まるようなら、そろそろ準備をしておく必要がある。駄目だった場合はそのままスルーすればい。
 それにその日、北村はやる気がなかった。今日は休んでいるような感じで、期待もしていない。そのため、それなりに自由に振る舞える。得たいものがない時ほど、自由なのだ。
 そして様子を見ていると、これはいけそうなことが分かった。まだ始めたばかりで、こんなところで、決めてしまうと、予定が狂う。
 しかし、それは前回失敗したものを越えていることが見えてきた。これは偶然だ。前回は狙っていたもの以上のものがあったのだが、今回はそれ以上。
 まったくの圏外。期待していないもの。だから自由さがあったのだろう。狙っていないだけに、その意外性に驚く。
 それよりも前回と似ている。これも偶然だ。まるで前回の残念な結果を取り戻してくれるかのように、それは現れたのだ。ノーマークのものが。
 この偶然性に驚いたのだが、北村にその期待がなければ、その偶然もない。
 偶然、それが起こっていても、知らないまま通過するだろう。気付かないのだ。その筋書きがないため。
 偶然を作っているのは北村自身かもしれない。
 そして、前回の失敗を取り戻せた。しかし、本当は失敗ではなく、巡り合わせが悪かったのだろう。前回も期待していないのに、現れたのだが、今回はそれ以上。
 タイミングもいいし、そのものも良い。この絶妙さは、まさに妙。誰かが書いた筋書きではないかと思えるほど、偶然にしては出来すぎている。
 では、誰がシナリオを書いたのだろう。これはおそらく北村自身。それは必ず遭遇するシナリオではなく、偶然の作用なので、確率は低い。
 だが、あらかじめそういうシナリオはあるのだ。まだ一度も実現されることはなかっても。
 犬も歩けば棒に当たる。間抜けな犬だが、前方に杭のような棒が立っておれば、見えるだろう。余所見していたのかもしれないが。
 その棒、誰かが投げたのかもしれない。だから、犬が普通に歩いているとき、棒に当たることもある。滅多にはないが。
 犬が棒に当たる確率。これは犬が棒に当たりたいと思っていれば確率は上がる。避けないので。
 しかし、無駄な動きでも、ウロウロしておれば、良い物に当たるのかもしれない。
 
   了




2022年11月6日

 

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