小説 川崎サイト

 

小勢力

 
 吉岡家が領外で戦をする時、付いてくる部隊がある。吉岡家の家来ではなく、その周辺にいる豪族のようなもので、規模は小さいが独立した勢力。
 そんな勢力がいくつかあり、吉岡軍に加わる。これは付き合いのようなものだが、別に行かなくても良い。
 吉岡家としては、それら小勢力を滅ぼしたいのだが、そうはいかない。土地に根ざしており、兵は少ないが、百姓達との縁が深く、それらが加わった場合、それなりの兵力になるし、また豪族同士も繋がりがある。援軍として、来るだろう。
 それに、それら小勢力は敵ではない。だから戦のある時は味方してくれる。
 吉岡家は隣国に攻め込むのだが、今回、小勢力の兵が少ない。
 軍奉行が計算したところ、いつもの半数以下。
「少ないのう」
「何か不満でもあるのかと」
「本来なら滅ぼすところを、生かしておる。それだけでも充分だろう」
「坂上殿などは数人で来ております。しかも指揮しているのは若い者で、これでは役に立ちません」
「戦働きを期待しておるのではない。頭数が多いほど良いのでな」
「しかし、何かあるに違いありません」
「集まりが悪い原因は何だと思う」
「私どもが口を挟むようなことではありませんが、負けると踏んだのでは」
「無礼であろう」横にいた吉岡家重臣が言う。
「待て、加藤。軍奉行の話も聞きたい」
 軍奉行は今回の戦い、不利であることを説明する。徒労に終わると。
 横にいた重臣は怒り出したのは、彼が進めた戦いのため。
 吉岡が攻めてくることを知った隣国では防御線をかなり張っていた。つまり本拠地まで辿り着くには、それらを突破しないといけない。
 この隣国にも小勢力が多数いた。味方なのか敵なのかよく分からない連中だ。吉岡領と似ているが、その関係は友好的で、今回、兵は少ないが、参陣している。
 軍奉行が言うには、今回は敵のその小勢力を計算に入れていないのではないかということを重臣に言う。
 そのことを吉岡家に従っている小勢力は知っているのではないか。それで、手強いと思い、戦う気がないのだ。
「どうすればいい」
 殿様は困った。
 軍奉行は重臣を見る。
 重臣は横を向く。
 あまり決め事をしない殿様だが、今回は取りやめることにした。
 
   了

 

 


2022年11月17日

 

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