小説 川崎サイト

 

朝の散歩

川崎ゆきお



「寒くなりましたなあ」
「そうですなあ」
「出るのが億劫になりますよ」
「いやいや、やはり外に出ないとね、健康によくありませんよ」
「そうなんですよ。だからこうして鞭打って、出て来たわけです」
「半数に減りましたなあ」
「これから冷えるともっともっと減りますよ」
「どうなんでしょうね。こんな寒い朝、出るが健康か、控えるが健康か」
「私らは、出るが健康の側でしょな」
「出てしまえば、どうってことないがな。暖房の効いた部屋にいると、出るのがいやになりますよ」
「それは、確かに」
「ですが、風邪を引いちゃ、もともこもない話だしね」
「運動することで、体力がつき、免疫力もつくはずなんじゃがな」
「疑問で?」
「そっ、疑問符だよ」
「体力が減るかもしれませんなあ」
「そこが勝負どころなんじゃよ」
「ほう」
「運動すれば血行もよくなる。食欲もわく。私は、こちらに賭けますなあ」
「じゃ、出て来ん連中は、逆へ賭けたと」
「体が暖まる前に、腹が冷えて下痢とかね」
「下痢は損ですなあ」
「じゃから、半々じゃよ。出て来てる連中が半分なのは、それを証明しておる」
「単純に怠けたいとかもありましょう」
「私もその口だがな」
「じゃ、純粋に出て来ておる連中は、ツワモノですなあ」
「まあ、好きなんでしょうな」
「歩きましょうか」
「そうですなあ。冷えますなあ。体を動かさんと」
 二人は立ち話をやめ、歩きだした。
「速足になるのは寒いためじゃろうな」
「温度上げですよ」
「しかし、汗が出ませんなあ」
「走れば出るんじゃないですか」
「いやいや、もう、私は走れないのですよ」
「私もそうですよ。最後に走ったのはいつか忘れました」
「信号が赤になりかけた時、走りませんか」
「走りません。急ぎますけどね」
「ああ。寒さが増してきました」
「暖ったまりませんなあ」
「明日はどうします」
「寝起きの体調で決めます」
「無理なさらんように」
「はい、お互いに」
 
   了


2007年11月19日

小説 川崎サイト