小説 川崎サイト

 

西池上の地

 
 西池上町へ行ってみたいと佐竹は思った。思うことは自由だが、実行することは希。そしてなぜ西池上町なのかが分からない。
 聞き覚えのある町名だが、行ったことがない。普段から使っている路線ではなく、また以前も乗った記憶が残っていないような電鉄会社。
 しかし、何かの機会で、乗っているかもしれない。だが、印象はない。
 その路線と並行して走っている大きな路線がもう一つあり、行き先は違うが、似たようなところを走っている。
 大きな路線は何度か乗ったが、何かの用事。ただ、頻繁ではなく、その沿線に行く必要があったのだろう。滅多にない。
 そこに西池上の町があり、駅名になっている。ただし西池上駅ではなく、ただの池上駅。西池上駅があるのは、並行して走っているローカル私鉄側。非常に隣接している。
 池上を思い出したきっかけは池上という人がテレビに出ており、何やら解説をしている。何処かの先生だろう。大学教授とか。
 それで池上という言葉から、池上駅を思い出した。これは何の意図もない。何かを思い出そうとしていたわけではない。池上という人名からの偶然の連想。当然連想などしない場合が多い。
 しかし、その池上駅ではなく、西池上駅の方が気になった。池上駅を思い出し、そこからさらに西池上駅を連想したわけだ。池上繋がりはそこで終わっている。
 どちらの路線も、普段は乗る機会がない。かなり佐竹の住む町や行動半径からも離れている。そこへ行くには別の路線に乗り換えたり、地下鉄やバスを使うことになる。そちらの方への用事は何十年もない。
 佐竹は地図で見ると、西池上駅は存在している。廃線ではない。この沿線はベッドタウンなので、利用者も多いのだろう。山が迫っているが、そこを切り開いてニュータウンができている。さらにもっと増えそうだ。
 これは地図を見ただけの情報。
 以前、大きな路線側の池上駅を通過したとき、その西側にある西池上駅あたりを見た覚えがあるような気もするが、のどかな場所に思えた。田んぼなども拡がっていた。これは曖昧な記憶。これでも最初は忘れていたのだが、何とか、そこまで思いだした。
 あそこは今、どうなっているのかなどはネット上で池上町のある市町村なりのホームページを見れば分かるだろうし、真上からの航空写真もあるので、すぐに分かる。また池上町に関することをネットで調べれば、出てくるはず。
 だから、わざわざ出掛けなくてもいい話。それに「あそこはどうなっているのだろう」という動機が浅い。ただ、一寸気になっただけ。
 これは見知らぬ場所へ行くためのネタなのだ。そのため、知らない方がいい。ローカル私鉄の西池上駅に降り立った瞬間がいい。そこに何があるのか、それは知らない方がいい。
 それよりも単なる思い付きで行ってみようかと佐竹は考えただけなので、その考えも、すぐに溶けて消えてしまった。
 
   了
 


2023年2月7日

 

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