小説 川崎サイト

 

SF妖怪

 
「妖怪は物質でしょうか」
 そう問いかける訪問者。妖怪博士宅だ。
 何か意見でも聞きたいのか、他で、このことを話せる相手が少ないのか、どちらにしても世間一般で取り交わされている話題ではない。
 妖怪博士はサイエンスに弱い。だから、この訪問者、来るところを間違えたのだろう。しかし、妖怪については妖怪博士は詳しいので、大きく外しているわけではない。妖怪研究家から聞くことは妥当かもしれない。
「妖怪を物怪とも言いますなあ」
 その先の展開は既に分かっている。物の怪。だから物怪は物質ということになる。物怪とは妖怪と似たような意味だろう。
「物質なら見えますね」
「居たらな」
「そうですねえ。妖怪には形がありますねえ、これは物だからですね」
「まあ、空中に蜃気楼のように現れる妖怪でも、これは物でしょうなあ。光は物質ですから、計れます。周波数もあるとか」
 妖怪博士のサイエンス知識のは限界はそこまで。
「では妖怪は科学的に調べられるのですね」
「はい、科学的な方法で妖怪を調べていた人もいましたが、妖怪を捕まえてきて、調べたわけじゃありません。それにそんなもの、居ないでしょ」
「でも妖怪は色々と居るんじゃないのですか」
「妖怪の剥製、木乃伊とかは有名ですなあ。しかし他の動物を組み合わせたものだったりします。確かに物として調べられますが、結果的には妖怪ではないことが分かったりします」
「科学の勝利ですね」
「調べなければ、それは永遠に妖怪であり続けたかもしれませんなあ」
「でも、人が細工したものだったのでしょ」
「そう見せかけただけかもしれませんよ」
「え、何をですか、博士」
「その木乃伊なり剥製が妖怪の実体じゃなく、その中に入っていたとすればどうですか」
「それはX線とかで分かるでしょ」
「しかし、中の実体は物ではないので、機材では捕らえられないのではありませんかな。熱もないし、匂いもしない」
「じゃ、贋作の木乃伊は実は本物だと」
「だからその木乃伊は偽物ですよ。問題は中の人です」
「人ですか」
「いや、中にいる何かです」
「でも、動物を繋ぎ合わせているときから、その何かはいるのですか」
「いえ、完成してからです。家ができたようなもの。じゃ、入ってやれと」
「そこで、何をするのですか」
「入るだけでしょ。何もしない妖怪」
「はあ」
「物に入り込む妖怪。だから物怪。物が怪しくなった状態。ただの言葉だけの話ですがね」
「じゃ、妖怪は物ではないことになりますが」
「動物の死骸なので、物です。でもそこに入り込んだ妖怪の実体は物か何かよく分からないと思いますよ。これは思っているだけなので」
「量子もつれですね」
 妖怪博士の頭が縺れた。
「結論を急ぎすぎました。パラレルワールドに繋がっているのです」
 妖怪博士は縺れただけではなく、繋がりも切れてしまった。
 妖怪博士、どうもSFには弱いようだ。
 
   了


 


2023年2月8日

 

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