小説 川崎サイト

 

決め事

 
 蒲生八家がある。蒲生の血を引く家系だが、蒲生本家は八家の中には含まれていない。
 本家だが力はない。本筋であり、蒲生家初代の血を引き継いでいる。直系だ。
 初代以前は大したことはなく、記録にはない。初代はある大名に仕えたが、身分は高くない。そこで一寸した手柄を立てたことで、その後活躍し、蒲生という姓を殿様から与えられた。だから、由緒正しい家ではない。出自が怪しい。
 そこから何代も経るうちに分家やそのまた分家ができ、蒲生一族となる。それを蒲生八家と言うようになるのだが、もう血は薄くなっており、中には養子を貰い、血の繋がりは耐えている家もある。
 だが、すぐに八家の娘と結婚し、その子は蒲生の血を持っているので、その子があとを継げば、蒲生の血を引き継いでいることになる。
 蒲生本家には勢いがない。あまり良い人が出なかったのだろう。しかし、本家なので、本家として収まっている。しかし、名ばかりで、蒲生領は八家が仕切っている。
 その蒲生八家の筆頭、芝浦蒲生と呼ばれる。芝浦に住んでいるためだ。しかし、この八家筆頭、まったく何もしていない。本家も何もしていないが、家臣筆頭も何もしていない。
 蒲生家の首席家老のようなもの。血の繋がりも濃い。だから蒲生家は殆ど血縁関係でできている。
 評定というのがあり、これは一族が集まり、決め事をする寄り合い。
 本家は見ているだけで、最終的な承諾をするだけ。それを仕切るのは八家筆頭ではなく、残りの七家。
 しかし、実際にあれやこれやというのはその中の三家ぐらい。
 その三家の一人で桑田という人がいる。八家の人間なのだが、蒲生姓ではない。しかし、その夫人は蒲生家の血を引いている。だから蒲生一族。
 この桑田という人が雄弁で、仕切り屋で、寄り合いでよく喋る人。だからどうしても、この人が主導権を握る。
 寄り合いを仕切っているのは八家筆頭なのだが、この人は何もしない。
 この桑田氏、弟がおり、この人は寄り合いには出ないし、桑田家にも居ないが、たまに来て、兄の相談相手になっている。
 雄弁な桑田氏だが、裏に弟がいる。
 その弟は桑田本家側の人間。ただ、桑田家は小さい。それに他国。
 だが、蒲生家はこの桑田の弟に仕切られているようなもの。
 寄り合いで、色々な相談をやるのだが、殆ど桑田氏の意見が通る。八家筆頭は、それを承諾し、本家にそれを伝えるだけ。本家は八家筆頭が取りまとめた案なので、それに従う。家臣団の総意なのだから、そのようにせよと言うだけ。
 それで蒲生家は桑田家に乗っ取られたわけではなく、また蒲生家の方針が、桑田氏の意見で大変なことになるわけではない。桑田兄弟には野心はない。結構公正なのだ。外部の人のためかもしれない。
 それ以前に、どうでもいいような決め事であり、どう決まろうと、大した違いはなかったようだ。
 
   了

 


2023年2月13日

 

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