小説 川崎サイト

 

インパクト

 
「最近どうですか」
 縁側での話ではないが、この二人、縁が深い。だからある年になっても、まだ付き合っているのだろう。腐れ縁と言ってもいい。これは互いの腐ったところを知っているためだろうか。そのため、上辺だけの付き合いではない。
「インパクトですなあ」
「ほう、インパクト」
「それが最近欠けております。だから発火しない」
「発火ですか」
「行動に至らないと言うことですかな。ただの好奇心だけで終わる。見ているだけ、知っただけ。そのため、本人が関わらない。まあ、動かないと言うことでしょう。インスピレーションが足りない」
「おやおや、いきなり難しい話を。でも話しているだけでしょ。ただの感想」
「インパクトが欲しい」
「転がってませんか」
「そうなんだ。いくらでもあるんだが、こちらの火薬が湿っておって火が点かん」
「しかし、火の気もないところでも強いインパクトなら火が点くんじゃないですか」
「それもある。このインパクト、理屈じゃないんだ。感覚の問題かもしれん。ただ、そこに意味が含まれているのも確か。意味が凝縮されておるから発火する」
「じゃ、意味は蒔きですか」
「火が点きやすいようにね。しかし、インパクトっていきなり来るからいいんですよ。最初から来るのが分かっておる場合、あまりインパクトは感じない。起こるべきして起こったという意味だからね」
「そんなにインパクトが欲しいのですかな」
「感情の高まり。これがあると動ける」
「売ってますかな」
「インパクトは人によって違うのです。だから、売っているものの中にもあるし、そうでないものの中にもある。つまり外ではなく、内にあるのですが、それには具体性がない。やはり表に現れないと気付かない」
「衝撃ですな、一種の」
「驚きです。だから、これは驚かないと駄目なんです」
「一寸派手ですなあ。花火のように。地味でインパクトがないものじゃ駄目ですか」
「そこです」
「え、どこですか」
「その地味なものの中にあるのですよ」
「何を言っているのか、見当が付きませんが、地味なものの中にこそ強い衝撃があると言っておるのですかな」
「落差です」
「そのインパクト、どうしたら得られますかな」
「来ます。勝手に。だから作れない」
「じゃ、何ともなりませんなあ」
「いきなりがーんと来るからいいのですよ」
「はい、よく分かりませんが、参考にしましょう」
「つまり、無視するってことですね」
「いやいや、本当に参考にしますよ」
「じゃ、話した甲斐があった」
「はい。またお願いします」
「話すだけの言いっぱなしですがね」
「大いに参考になりました」
「じゃ、今日はこれぐらいにしておきます」
「はい、ご苦労様でした」
 
   了

 


2023年2月17日

 

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