小説 川崎サイト

 

厄病神

 
 今日も何とか過ぎていく。何とかとは、何かあったのだろう。
 しかし、難なきを得たようで、高島は無事。事なきを得る。大事には至らなかったが、小事には至った。しかし、通過したので、もう無事。
 夕日が沈む頃、そんなことを思い浮かべた。もう一日が終わる頃なので。
 日が沈んでからも夜がある。すぐに床につくわけではない。また床についてからもまだその日は終わっていない。
 夕方に寝てしまったとしても、まだ日が変わるまで時間がある。そして朝までの間の夜中、何かが起こるかもしれない。その殆どは寝ているので分からないが、起こされるようなことがあるかもしれない。まさか赤穂浪士の討ち入りに遭遇するわけではないが。
 そういえば、昨日の今頃、高島は今のようなことなど思わなかった。大事もなければ小事もなかったのだろう。
 いつ、何処で何が起こるかしれないが、普段通りにしている。起こったときは起こったとき、そのときはそのときだ。
 しかし、見えている心配事や厄介事はどうしても意識してしまう。去ればさっと消えるのだが、現在進行系のタイプは厄介だ。
 ただ、高島が知らないだけで、進んでいるものもあるのだろう。深く静かに潜行タイプ。
 どちらにしても、その日は、何となく過ぎていくはずだったが、その帰路、厄介な人間に出くわした。まさに厄病神。
 これが本命だったのかと、そのとき気付く。小事では済まない大事かもしれない。
 しかし、その厄病神、しばらく合っていないのだが、大人しくなっている。言葉遣いも丁寧だし、親しかった間柄なのに、敬語も入っている。人変わりしたのか、または高島を誰かと間違えたのか、そこは分からないまま。
 それで、さっと挨拶程度の会話を交わしただけで、別れた。いつもなら納豆のように糸を引き、ネチャネチャになるほど、ねちっこい話をやり出すのだが、あっさりしたものだ。
 高島は助かったような気になる。出合うたびに厄介なことに巻き込まれるのだが、今回は何も言ってこない。ただの挨拶。
 その厄病神に何があったのだ。いつもと違う。厄神さんへ行って御札でも貼って貰ったのだろうか。厄が落ちていると見た方がいい。
 厄介事、大事は嫌だが、高島はどこかそれを期待していたような節がある。ただの挨拶だけでは物足りなく感じる。
 それで、高島は、厄病神のあとを追い、ポンと肩を叩いた。
 厄病神はゆっくりと頭だけ振り向き、にやっと笑った。目が怖い。
 しまった。罠にかかったかと高峯は後悔した。
 
   了

 


2023年2月20日

 

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