小説 川崎サイト

 

気になるもの

 
 それは、やりたいことだが、増えすぎた。
 散歩中、田中はそんなことを思った。この散歩、過去や未来のことを考える。
 宇宙規模、地球規模の話ではない。人生規模が少し入るが、昨日今日、明日のことが多い。もう少し先のことまで考えたとき、増えすぎたと感じた。やることが。
 しかし、やる必要のないことなので、必ずしも実行する必要はない。この散歩だが、これも省略してもいい事だ。
 梅は満開だが、桜はまだまだ。それで、たまに桜の枝を見る。膨らみはあるが、これはずっとある。それをたまに見るのだが、これもしなくてもいい事。やってもそれほど楽しいことではないし、ためになることでもない。一寸気になるだけ。
 その気になることが溜まっている。それをやっている暇はない。忙しいわけではないが、気になることが多いのだ。全部やることは可能だが、まだ増え続けている。
 これは新規を入れなければいいのだが、そうはいかない。気になりそうなものを見付け出すのが楽しい。
 それを見付けただけで満足する。だから見付けるだけでもいいのだが、実行が前提。やってみないと話にならない。
 田中はそれで物知りになったわけではない。知識は非常に浅く、どのジャンルも冷やかし程度。本気でやらないためだし、それだけの力もない。
 忙しいからではなく、一寸入口を覗く程度。それ以上奥へ入ると面倒臭くなり、そこで終わってしまう。
 それでも、やることが多いので、飽きない。たとえ実行に至らなくても、やる予定があるだけで充分。
 非常に浅はかな上辺だけの知識。通り一遍の知識。そのほんの入口程度なので、これはもう浅い浅い。それ以上突っ込まないのは、田中にとって必要ではないためだろう。敢えてブレーキを踏むわけではなく、勝手に止まってしまう。
 さて、散歩中、桜は見たので、次は雪柳。それがある場所を知っている。通り道だ。一つだけ白い花が付いていた。一粒だ。これがびっしりと咲くと雪が積もったように見える。
 一つだけ咲いているが、早すぎたようで、その他は蕾のまま。かなり膨らんでおり、小さなコブが数珠成り。その枝、指で握り、擦れば気持ちがいいかもしれない。当然実行しないが。
 これは通り道なので、わざわざそこへ行かなくてもいいので、実行しやすい。見るだけなので。
 本を読んでも読むのではなく、文字ズラだけを見ていることが多い。活字の中には入れないのだ。目だけで表面を撫ぜる程度。この状態になると、読めないので、そこで終わる。
 意味が分からない本をいくら読んでも頭に入らないので、文字を見ているだけになる。それなら、文字が書かれたものなら何でも良いことになるが。
 その本も気になっていたものの一つだが、それ以上読み進めないとなると、逆にほっとする。その時間に他のことが出来るので。
 それもまた、似たようなことになると、次々と溜まっていたものが減るので、これは気持ちよかったりする。
 
   了


  


2023年2月28日

 

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