小説 川崎サイト

 

 
「自然と出てこなければ駄目じゃな」
「はあ、自然にですか、お師匠様」
「頭で出してはいかん」
「考えてやったら駄目なのですね」
「そうじゃ、勝手に出てくる」
「何処からですか、お師匠様」
「何が」
「ですから、自然と出るものが」
「大小がそうじゃ」
「刀ですか」
「腰より下」
「ああ、小便と大便ですね。確かに自然に出てきますが、止めることは出来ます。そうでないと漏れ放題垂れ放題ですから」
「止めることは出来る。その通り」
「それは考えて止めるのですね」
「それもある」
「自然に出て来るものは、勝手に出てくることは分かりましたが、何処から出るのですか」
「さあ、分からん。勝手に出るのでな」
「何処にですか」
「何が」
「ですから、何処から出てくるのでしょうか」
「分からぬ」
「そうなんですか」
「溜まれば出ることもある」
「やはり大小の話なのですね。それは成り行きで出るのでしょうか」
「さあ」
「頼りないですねえ。師匠」
「うむ」
「頭の中で自然に思い付くのですか」
「そこからが難しい」
「頼りないですねえ。自然に湧き上がるとか」
「閃く場合もある」
「いきなりですか」
「思案しておるとき、すっと横入りすることもある」
「何ですか、それは」
「それは既に決まっていたかのようにな」
「自分で決めたのですか」
「決めようとしたわけではないが、自然と、それじゃろうと。これじゃろうと考えた直前に来ておるんじゃ」
「それって、何ですか。思案しないでももう決まっているのですか」
「いや、決まっておることなども気付かん。しかし、真っ先にそれが来ておったことは知っておる」
「じゃ、考える必要はないのですね」
「一応は、考える。理に即すようにな」
「じゃ、最初に出てきたのには理はないのですね。理屈は」
「そこじゃ」
「よく見えませんが」
「運命、定めとはまた違う」
「ややこしいところにはまり込んでませんか、師匠。しっかりして下さい」
「最初から決めていたんじゃ。そうなるように」
「じゃ、やはり運命ですね」
「ちと違う。だから止めることが出来る。無視することも出来る」
「ややこしいですねえ」
「昔からそれを勘と呼んでおるが、勘には勘違いが付きもの。そういう戒めがあるので、人には勧めん」
「直感ですか」
「頭の使い方がちと違う。いや、使っているかどうかが分からん。ただ、そういう気がするという結果だけは分かる」
「その自然に出て来るもの。誰が出しているのですか」
「本人じゃろ」
「最初から勘の話でしたか」
「それは極意に属することゆえ、聞く者を選ぶ」
「それを私に」
「しかし、ちと人選を誤った。わしの勘違いじゃった」
「勘も、駄目ですねえ」
「まあな」
 
   了


  


2023年3月2日

 

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