小説 川崎サイト

 

間抜けな殿様

 
 間の抜けたような殿様。間抜けだが、誰も指摘しない。それでもやっていけるのは家臣団がしっかりしているため。
 たとえ殿様がしっかり者でも、この家臣団が言うことを聞かない。殿様の命令は絶対ではない。
 しかし、そのように扱われており、全ては殿様に委ねられている。その内実は家臣団の話し合いで決まる。
 この殿様、本当に間が抜けている。芝居ではなく、本当だ。家臣団はそれでよしとしている。その方が好ましいため。どうせ、殿様などいてもいなくても同じこと。
 その殿様、家臣団の中から出たわけではなく、由緒正しい家柄で、最初からここの領主の家柄。
 歴代の領主の中に、面倒な殿様もいたが、家臣団がすぐに当主替えしている。それほど、この領国での家臣団は強い。
 それで、間抜けな殿様が当主になったので家臣団は安心している。もっとも、その殿様を祭り上げたのは家臣団。先代の次男だ。長男を差し置いて次男。これは長男の出来が良すぎたため。
 その長男、出家させられ、寺にいる。気が触れたとされたため。乱心とみなされたが、でっち上げ。
 それで家督は次男に譲ることになったのだが、重臣達の企みだと言われている。実際、そうだった。
 殿様には直轄地がある。領内で一番広い。家臣団も領地を持っているが、一つ一つは小さい。しかし集めると、殿様の領地よりも大きくなる。
 もし内乱が起こったとき、家臣団が結束すれば、集められる兵も多いため、殿様領の兵より多くなる。
 家臣団の結束。寺にいる長男はそれをよく知っている。
 何とかしたいものだが、それで領内が上手く収まっているので、何ともし難い。
 ある時、寺にいる長男は間抜けな殿様、つまり弟に密書などを送り、事を起こす方法などを伝えた。
 間抜けな殿様なのだが、しっかりとした返事が来た。長男は驚いた。芝居だったのかと。
 だから、決して間抜けな殿様ではなかったのだ。
 ただ、弟の筆跡にしては、少し達筆すぎた。
 
   了


  


2023年3月4日

 

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