小説 川崎サイト

 

博士達

 
 有馬博士宅に白浜博士が来ている。山沿いに近い郊外。周りは田畑や雑木林。通勤圏から少し離れている。
 最寄りの駅はかなり遠い。僻地ではないが、不便な場所。そんなところにある雑木林の中に有馬博士宅がある。以前は桑畑で、その前は桃畑。さらにその前は綿花を栽培していた。それなりに広い土地。
 そこにぽつりと屋敷があるのだが、場所と不似合い。そんなところに大きな庄屋屋敷のようなのがある。家屋が集まっている村のど真ん中なら分かる。
 有馬博士と白浜博士が雑談しているとき、遠方から道後博士がやってきた。これは三人で会うためなので、揃ったところで本題に入った。
 これらの博士、博士号を取ったとかではなく、隠語なのだ。有馬も隠語であり、博士も隠語。
 一番年を取っているのは道後博士。滅多に姿を見せない人で、遠方で隠遁している。しかし、いざとなると出てくる。
 大概の場合は有馬博士だけで済むのだが、それでは済まないときは白浜博士が協力する。それでも駄目なときは道後博士が来る。これがベストメンバーだ。
 今回は非常事態に近いらしい。それで道後博士を加えることになったのだが、寄る年波で、どっぷりと波を被ったのか、ややもうろく気味。それでも遠方からやって来られるのだから、まだまだ健在。
「どうも我々は蚊帳の外に置かれておるようです」
「統制はわしらが取っておるはず」
「わしらへの相談がない」
「じゃ、誰が決めておるのか」
「わしら以外には、そんな奥から声を出す者などおらん」
「では、もう必要とされておらんのかもな」
 有馬博士と白浜博士は道後博士の顔を見る。何か、思い当たるところがあるはずだと。
 ところが道後博士、そういうことに疎くなっているし、最近の情報も入ってこない。たまに有馬博士からの知らせがある程度。だから、聞いても知っているはずがない。
「わしらよりも上位の者がおるのではありませんか。つまり道後博士よりも上の人」
「死んでおらんがな」
「そうですな。では、わしら三人衆に匹敵する者はおりませんか」
「昔はおったが、もう絶えた」
「海の向こうから来た連中かもしれません」
「それなら、わしには分からん。昔のことなら知っておるがな」
 その業界の最長老三人、何処かで見捨てられたようだ。
 
   了


2023年3月28日

 

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