小説 川崎サイト

 

ある花見

 
 春本番、満開の桜。昨日まで雨だったのが、それが上がり、花見日和。
 その明るさとは裏腹に、坂上は暗かった。悪いことが重なり、花見どころではない。その悪いことは先々続く。こういうのを坂上は常に待っている。
 その心配事が終わったとき、心配するようなことではなかったと、取り越し苦労だったことが分かるのだが、それが続いている間は、そうは思わない。
 悪いことが続くと、良い事が一つポツンと入るはず。そんな期待はしていないし、どういう良い事なのかも想像していない。
 そのポツンとが来た。これがおそらくそうだろうというもので、滅多にないこと。一度か二度はあったのだが、もう来ないと思っていたのが来た。
 すると、悪いことが重なるのもいいことだと思ってしまう。良い事が起こる前触れなのだ。しかし、それとは関係のないものが来ているので、まだ続いている悪いことの解決にはならないが。
 しかし、その悪いこと。思っているほど大したことではないような気がしてきた。それは青空に映える桜を見たためだろうか。そしてそれを眺めている人々の陽気をもらったのか、坂上にもそれが移ったようになり、まさに気が晴れてきた。悪いことは確かに続いているのだが、それが薄まった。
 その後は陽気に振る舞うようになったわけではなく、陰気が静まった程度。つまりニュートラルだろう。陰と陽のどちらにも傾いていないわけではないが、極端な振り方をしていない程度。
 だから、良いことがあったのだが、その盛り上がりも小さい。静かな盛り上がり。
 それらは坂上が勝手に思っているだけの世界で、全てが坂上の解釈次第。しかし、大きく外れているわけではない。
 良いことが起こったとき、坂上はそれについて考えてみた。これは予定にはないし、ずっと望んでいたことではない。その予兆もなかった。いきなり来た。だから、坂上の知らないところで、静かに進行していたのだろう。
 悪いこともそうだ。水面下で進行しているのだろう。気付かない方がいいのかもしれない。
 坂上は予定に反して云々というのを意外と多く体験している。坂上が勝手に思っている世界とは違うことが起こる。
 それで今年の桜、ただ、何となく眺めているだけの花見になった。バランスがいいのか悪いのか、よく分からない。
 
   了


2023年3月31日

 

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