小説 川崎サイト

 

悪だくみ

 
 芝垣は動揺を隠せない。しかし、見た目は同じようなもの。だから内面がそうなっている。心臓が高鳴り、息も浅い。
 一寸そのへんを走り、呼吸が荒い程度だが、それ以下だろう。ハアハアいっているわけではないが、運動と違い、それが長引いている。いずれ治まるだろうとは思うものの、居心地の悪さがある。
 順調に行っていた計画が、崩れそうになっている。それが原因だ。その兆しが出ている。
 何処かで発覚したのか、尾上の様子がおかしい。
 尾上が芝垣を見る目が違っているように思われる。バレたのかもしれない。しかし、露骨な感じではないもののいつもと様子が違うのだ。
 これは尾上が芝垣の企みに気付いたのではなく、尾上が企んでいたことがバレそうになったので、それを他に漏らしたのが芝垣ではないかと思ったため。だから目付きが違う。
 芝垣は尾上の企みを知っていたが、漏らしていない。逆に芝垣の企みを尾上が気付いたのではないかと、そう受け取った。
 芝垣の企み、他に知っている者がいる。高島と前田。二人とも口が硬いし、漏らすと本人にも災いが来るので、漏らすはずがない。
 ところが尾上は第三者。芝垣の企みは知らないはず。
 まさか、尾上が同じようなことを別にやっており、それが発覚しそうになっていることなど芝垣は知らない。
 疑心暗鬼。これで芝垣は落ち着かない。やはり直接問いただしてみるのがいい。違っているのなら、安心できる。
 尾上がどうして知ったのか分からないが、誰かから聞いたとすれば、そいつを知りたい。
 それで、芝垣は尾上と会うことにした。
 あの企みを知っているかどうかだ。
 そして二人は会った。
 だが、あの企てを知っているのかと尾上に聞いた場合、もし知らなければ、そんなことを企てていたのかと分かってしまう。藪蛇だ。
 尾上も企てがあり、それが芝垣にバレたのではないかと思っているのだが、違っている場合、余計なことを聞いたことになる。
 だから、二人とも言葉が出ない。沈黙したまま。
 その後、二つの企ては発覚しないまま進行している。
 しかし二人とも、ヒヤヒヤもので、くつろげる場でもくつろげないでいる。
 二人とも悪だくみをするだけの度胸がないのだろう。
 
   了


2023年4月3日

 

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