小説 川崎サイト

 

従属

 
「使者がまた来ております。田辺本城からです」
「兵を出せということだろ」
「はい、二度目です」
「わしに命じておるのじゃな」
「わが郷は田辺に従属しております」
「外に対してはな。しかし実際は違う。ここはここで独立しておる。田辺は大きな郷だっただけのこと。いわば連合だ」
「でも、形の上では従属です。属国です」
「国というほどじゃない。数ヶ村の郷ではな」
「如何致しましょう」
「まあ、昔から田辺とは同盟の仲。何かあれば援軍を出していたが、今は命じてくる。これが面白くない」
「片野や富沢や倉田はどう動くのでしょうか、我らと同じ従属関係。やはり兵を出すのでしょうか」
「出方を見よう。わしらだけが出さんとなると問題だからな」
 片野と富沢と倉田の家老が集まり、四家で話し合った。この四ヶ郷が結束すれば、田辺よりも大きくなる。当然兵数も。
「今回の戦い不利」
「敵が大きすぎます」
「だから本城も必死」
「本城の田辺の家臣も尻込みしておるとか」
「こりゃ戦う前から負けじゃ」
「どうなりましょう」
「田辺との国境の数ヶ村を奪ったところで、敵は引くじゃろう。それ以上中に入ると、我ら郷士との戦いになり、敵もそれは面倒」
「では、我らが、田辺に従い、敵をやっつければ良いのでは。同じことでしょ」
「いやいや、郷内に入った敵は何とでもなる、勝ちはせんが負けはせん」
「そうですなあ、他郷で戦うとなると、勝手が違いましょう。おそらくは野戦。地の利を生かした郷内とでは違いますなあ」
 この会議で、一応兵を出すことに決まった。戦うつもりなのではなく、形だけの話。やる気はない。
 そして田辺本城に集結したのだが、四か郷の兵は出し惜しみし、少ない。本当に形だけ。
 本城田辺家の家老は、負けたと悟る。従属し、家臣になっているのだが、四ヶ郷の長は、そのつもりはない。下手をすると敵方に寝返ってもいいと思っている程。
 そして、敵の兵は国境の数カ所に踏み込み、占領してしまう。
 田辺城には兵がいるのだが、出ていかなかった。どうせ取られるのだから、怪我をしたくなかったのだろう。
 敵の侵攻はそこまでで、それ以上進行すると、兵も消耗する。そして敵兵も、無理な戦いになると、引き返すだろう。
 大きな勢力同士の戦い。小勢力時代は小競り合い程度で静かだった。
 
   了

 


2023年4月13日

 

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