小説 川崎サイト

 

雨休み

 
 雨の日は田畑に出ないで家で本でも読んで過ごす。そういうことを何処かで三原は聞いた覚えがある。何かのフレーズで、出てくる。
 これは昔の百姓さんだろうか。確かに雨では畑仕事はしんどい。しかしやれないことはない。それが小雨程度なら出るだろう。昨日の続きがある。やりかけていたことをやらないと、遅れることになる。
 ここで遅れると、あとで忙しくなる。雨で濡れるぐらいなら大したことはない。
 それに、部屋で本を読むだろうか。家の中で出来る仕事をするのではないか。土間で農具の手入れをしたりとか。やることは結構ある。
 だから、この人、百姓ではないのかもしれない。本を読む人だし。
 しかし、野良仕事をする時間は長い。その間ずっと読書なら飽きてくるだろう。だから一日中本を読んでいても飽きない人。やはり本好きな百姓でもない限り、無理だ。
 それに一人で野良に出るのではなく、家人と一緒かもしれない。そうなると本人は本を読めばいいのだが、他の家族などはどう過ごすのだろう。
 三原は、そんなことを考えると、これは隠遁生活を送っている武家ではないかと思った。必死で田畑を耕さなくてもいいような身分。
 それでも雨の日以外は野良仕事をしていたのだから、勤勉だ。しかしその田畑のある場所は、山の中にぽつりとあるわけではない。村にある田畑は共同作業も多いだろう。雨の日でも続けることもあるはずで、雨だから一人だけ勝手に休むわけにはいかない。
 これは架空の人物で架空の場所ではないかと三原は考えた。ただ、それがどのようなところで語られていたのかは知らない。何処かで聞いた話なので。
 それを知れば、ああなるほど思えるかもしれない。
 しかし、三原はこの話を気に入っている。なぜなら、雨を理由にして、外での用事を中止することができるため。
 といって部屋で本を読むわけではなく、寝転がったり、好きなことをやっているだけで、用事はしない。部屋の中でも出来る用事はそれなりにあるが、雨なので休み。雨を言い訳に使っている。
 これは雨休みで、雨が降るとサボれるだけの話だろう。
 
   了

 



2023年4月18日

 

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