小説 川崎サイト

 

雑念

 
 同じ道を行くにしても、その日により、印象が違う。それを違えているのは本人かもしれない。
 ただ、天気により、気分が違ってくることもあるが、それとは関係なく、見え方が違う。昨日と同じ道沿いなので、風景は同じ。同じものが見えているのだが、そこでも僅かだが変化があり、決して同じではない。そういうことと関係なく、見え方が違う。
 これは目の問題もある。一寸見え方が悪いときもある。視力の問題だが、それがあったとしても、やはり違って見えることがある。
 では、何を見ているのか。それは見ていないのかもしれない。目はそこに行っているのだが、上の空。視線が上空へ行っているわけではない。
 柏原は目を擦ってみた。すると目やにが付いていた。それで見え方がよくなった。先ほどまで霞みがちだったのは、そのためだ。こういうのは分かりやすい。原因がはっきりとしており、取り除くと、元に戻る。
 その元とは普段通りということだが、この普段も年々変化している。ただ、徐々なので気付かない。
 柏原の見え方が毎日それなりに、少し違うのは過去の記憶からの押し出しではない。
 その過去が昨日とか、ついこの前とか、最前とかなら、その影響を諸に受けるだろう。だから見え方もそれが影響する。
 たとえば、その直前、旧友とばったり出会い、軽く会釈した。悪い出合いではないが、ただの挨拶程度で過ぎ去った。そのあと見る風景は一寸違う。風景も目に入っているが、その旧友のことを思い出したりしている。
 旧友世界に一寸だけ入っているのだ。この時、直前の記憶だけではなく、かなり昔の記憶も引っ張り出される。そう言うきっかけでもなければ思い出さないだろう。その用事がない。ただ、何かの連想で浮かんでくることもあるが。
 しかし、過去の記憶とかがずっと常駐し、それで見え方が違うとかは榊原にはない。古すぎると出てこないのだ。
 毎日変わる気分。これは何だろうかと榊原は考えた。これは用事ではない。また必要なことではない。雑念に近い。
 しかし、日々雑念の連続のように思えたりする。普段から色々なことが頭をよぎるのだが、その殆どは雑念。仕事とか用事のときでも、それが傍らにいたりする。
 その雑念はまさに雑々としており、纏まりのない話が多いが、たまに以前のことが尾を引いて、今もそれを引き摺っていることもある。ただ、忘れているときは、その影響下にはない。
 人の体は水分が殆どで、それでできているらしいが、頭の中も雑念で出来ているのかしれない。
 そして、今日はどんな見え方をするのかは蓋を開けないと分からない。
 柏原としては、楽しいことを期待している。
 
   了

 

 


2023年4月22日

 

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