小説 川崎サイト

 

巨石

 
 麓は市街地で、高層マンションとかが林立し、高速道路や鉄道も走っている。すぐ先に海があり、港があり、大きな工場なども見える。
 その山は市街地から近いため、毎朝散歩で登る人もいるほど。里山という感じではなく、いきなり山の相に変わる。間がない。麓が農地ならその裏山も人が手入れしていただろう。そういった農家はないし、林業関係者や猟師もいない。山は国有林で、その中は禁猟区。
 山は浅いが横に伸びており、地形上は山脈。浅いと言っても山襞が多く、一つの山がなだらかに上へ向かっているわけではない。
 この山、山脈が一つの山なのだが、山塊として分け、それぞれ名が付いている。
 要するに、よく人が入り込んでいる。ハイカーが多いとううことだろう。軽装で登れるし、遭難したとしても一寸高いところへ登れば下に市街地が見える。
 それに山脈の奥行きは短い。山脈の尾根には道路が走っているし、バスもあるほど。またケーブルもあり、簡単に来ることが出来るのが、下からまともに登るとなると千メールクラスの山なので、流石に厳しい。麓は松が多いが、山上近くには杉が多くある。気温差も結構ある。
 そういう身近な山なのだが、迷う人もいる。
 また、聞いたことのないような妙な名の神社もある。村の神社ではなく、古事記にチラッとだけ出てくる神様が結構いる。
 流石に山中に寺はなく、住職がいる寺は麓にある程度。山中にお堂があるが、これは地蔵さんがいる程度。
 しかし、神社は多い。無人だが、しっかりと管理されており、行事があればそれなりに人が集まる。市街地ではなく、山中なので、わざわざここまで登ってくる人は希なのだが。
 そういった人が中に入れる建物のある神社が複数あり、それぞれ古い神様が祭られている。
 ただ、聞くことの少ない神様達だが、有名どころの神様の別名だったりする。
 この山そのものが聖域らしいのだが、色々なタイプが混ざり合い、管理する人もバラバラ。
 ただ、この山脈の中程に無数のくさびを打ち込んでいるような感じがあり、麓にも、似たような祠がある。
 神社が出来る前までは巨石。これがタネのようなもの。巨石に神が降りて来るというあれだ。
 当然、この山。もの凄い数のハイキング道が出来ており、山道が迷路のように入り組んでいる。中には崖にぶつかり、通れないところは階段が出来ている。
 それでも無理な場合は作業用の鉄階段のようなものが危なげに括り付けられている。このメンテナンスだけでも大変だろう。今までそれが外れて怪我人が出たという話は聞かない。
 ハイキング道とハイキング道を繋げるためのバイパスのような道もある。
 しかし、先ほどのような小さな神社があるところにはハイカーも滅多に入り込まない。そこで行き止まりになるためだ。岩山が絶壁のように迫り、その下も巨石があちらこちらに転がっている。
 大昔、噴火したとき、転がってきたとか、飛んできたとか言われているが、誰かが置いたとしか思えないような配置になっていたりするし、誰かが削ったのではないかと思える断面もあるし、また妙な形の線画が画かれていたりする。
 それと、このあたりにある神社との関係もよく分からないし、また祭ってある神様達との関係も分からない。古い時代からある神名だが、その名を借りているだけで、もっと古い何かだった可能性もある。
 神社はそれほど古いものではなく、それがなかった時代は巨石が、それだったのかもしれない。
 
   了

 

 


2023年5月10日

 

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