小説 川崎サイト

 

使えるやつ

 
「今度入った毛羽ですが、使えますなあ」
「駿馬じゃ。また才気がみなぎっておるしな。馬鹿なやつだ」
「名を毛馬とあらためたほうが良いようです」
「指摘したようだな」
「はい、講師の間違いを」
「言わぬともいいことを。馬鹿じゃのう」
「手綱も鞍もない裸馬。毛馬ですからなあ」
「毛馬とはそういう意味か。馬なら毛はあろう。言わなくてもいいこと」
「才気が走りすぎでございます」
「他には」
「既に仲間を主導しております」
「雄弁じゃからのう。口が立つ」
「それに言っていることが正しい」
「馬鹿なやつだ」
「呼びましょうか」
「そうじゃな」
「使えます」
「しかし、最近、そんな者はいなかったが、毛羽だけは特別か」
「知らないのでしょう」
「今まで何処にいたんだ」
「ずっと部屋住みで、しかも田舎暮らし。世の中に出るのは、これが初めて」
「道理でな」
「説得できるか」
「毛羽をですか」
「そうじゃ」
「味方に引き込めるか」
「馬には餌。簡単でしょ」
「しかし、食うかな。賢いぞ」
「白崎殿ならば、上手く言いくるめます」
「馬鹿なやつだ」
「良い道具です」
「捨て駒になるのにな」
「毛馬にはふさわしいかと」
 しかし、毛羽は誘いに乗らなかった。
 仲間から忠告されたのだ。あまり目立たないようにと。
 毛馬は賢い若者なので、すぐに理解した。
 最初の頃の勢いは消え。毛羽は大人しくなり、静かな若者になった。
 誘い人の白崎が色々と説いたが、毛羽は乗ってこない。まだ、田舎くさい若者なので、白崎は凡夫と思った。それなら、他の若者も、そんな感じなので、珍しくはない。
「使えませんなあ」
「白崎殿も落胆したようだな」
「どう口説いても、引っ張り込めません。餌も用意しましたのに」
「隠したな」
「おそらくは」
「賢いやつだ。これはますます使えるぞ」
 その後、毛馬は溢れんばかりの才気はまったく見せず。その逆になった。
 
   了


  


2023年5月16日

 

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