小説 川崎サイト

 

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「雨が続きますなあ」
「昨日も雨でしたね。弱いですが」
「五月晴れの季節なのに、雨が多いです」
「明日も雨らしい」
「まだ続きますか」
「続きます」
「一日ぐらいならいいんですがね。二日は一寸何ですが、三日も続くと、さらに一寸です」
「何が一寸なのですか」
「いや、一寸です」
「しかし、この雨でアジサイには都合が良いかもしれませんよ」
「もう咲いていますか」
「まだ青いブツブツの蕾ですが、咲いている箇所もあります」
「雨が多いと咲きやすいのでしょうか」
「さあ、それは分かりませんが、アジサイは梅雨前にはもう咲きます。五月晴れのカラカラの天気が続いても咲くかもしれませんよ。しかし五月中ずっと晴れなんて年はないでしょ。だから確認したわけではありません」
「私なんて、アジサイなど見ていない」
「生け垣に多いですよ。歩道脇とかに」
「じゃ、見ているかもしれませんが、ほんの一瞬ですよ」
「しかし、目立つはずですよ。それに咲き出すと五月蠅いほどアジサイの帯の幕ができます」
「それも見ているんでしょうねえ。散歩でも行けばきっと見ているでしょうが」
「見えているのに、見えていない。よくあることですよ」
「そうですねえ、アジサイが咲いていても特に問題はないですから」
「そうですねえ」
「しかし、電線はよく見ますよ。電信柱の電線や、電話線のようなものも。中には有線の電線もありますよ。それとか共同アンテナのテレビ線とかも」
「詳しいですねえ。じゃ、道を行くとき、横ではなく、上を見ているのですか」
「さあ、自然と目に入るのです。真上を見ているわけじゃないですがね。それと電柱の形。継ぎ足していたりします。もう一段上に走らせるためでしょうねえ。足りないんです」
「よく見ておられる」
「高い電柱の先にカラスがいます」
「ああ、よく見かけますねえ」
「ダミーです。作り物です。機材などが置いてあるんでしょうねえ。だからそこに止まらないように剣山のようなので囲んでいます。さらにカラスの置物。これはカラスが警戒するのかもしれませんよ。見かけない奴がいるとかでね」
「そんなところまで見ているのですか。双眼鏡がいるでしょ」
「持ち歩いていません。よく見ると、それなりに見えます。逆光だと、一寸苦しいですがね」
「アジサイは見ないが、そういうのを見ると」
「あなたも電線が目に入っているでしょ。だから見ているのですよ」
「特に問題がなければ見ません。それにあまり興味が。あ、それはあなたがアジサイに興味がないのと同じことかもしれませんよね」
「はい、そうだと思います」
 
   了

  


2023年5月17日

 

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