小説 川崎サイト

 

臍石

 
 平岡の町は平地にあり、高低差はほぼない。ただ、川の土手が高いため、そこは少しだけ坂道。平岡町はその橋を渡ったところにあるのだが、そこからが平岡町ではなく、もう少し先。
 周囲には町工場があったり、農家だった家も見受けられるが、ほぼ住宅地。
 最寄り駅から離れているため、ここに引っ越すような人は少ない。そのため、マンションは少なく、高いのもない。あとは長屋風の棟が串柿のように連なっている。おそらく農地だったところだろう。
 いずれも工場が近くにあるので、そこで働く人にとっては通うのは便利な町。ただ、平岡町はそこではく、もっと内側にある。奥まった場所に。
 チマチマとした庭のないような建売住宅などが結構あるが、そこを通り抜けると、少し趣の異なる家が見える。
 町並みというほどの風景ではないが、長屋の他に、農家のように大きな家も見える。しかし、農家ではなさそうだ。平岡町が村だった形跡がない。大小の村が周囲にあるが、いずれも村跡で、今は農地さえない。
 そこに農家でもない古い家がそれなりに固まっているが、どの道も狭く、町の中央というのもない。神社もない。
 狭苦しい場所に、申し訳程度の児童公園と納屋のような集会所がある程度。
 だからこの町の特徴がなく、そんな町などがあったのだろうかと思うほど。
 狭い道しかない平岡町だが、その道が入り組んでおり、まるで迷路。すぐに行き止まりになるか車両が入れない狭さになる。
 しかし、わざわざこの町を通り抜けるような車はいない。近道にならないためだ。そして用事がない。
 その狭い道を行くと、行き止まりのはずが、左右に抜けることができる。ここは流石に狭すぎる。自転車のハンドル幅の限界だろう。
 そして中に押しいると、塀とか建物の壁が迫るのだが、すぐに抜け、少し広い道に出る。といっても車一台が通れる程度。
 さらに進むと、ぐるぐる回っているような感じになってくる。カタツムリのようにぐるぐると。ただ、カクカクとしており、曲線ではないが。
 どうも中央があるらしく、その中心部が町の一番奥深いところだろうか。
 こういうところに外から来た人が入り込むようなことはない。何かのセールスで来るのなら別だが、用事がなければ、そんな奥の奥の回り込んだ中央部へまで行かないだろう。
 そして、中央部には井戸ぐらいの空き地があり、そこに石が置かれている。一人では運べないほどの石。人が加工したような形だが、石仏の作り損ねではない。動物が丸まっているような形だが、最初からそんな形なのかもしれない。
 謂れ、言い伝えなどは一切書かれていないし、案内板のようなものもない。場所は四方が家の裏側。塀とか壁で囲まれた狭苦しい一角。
 平岡町の横に大きい目の道が走っている。そこから一瞬平岡町が見えるのだが、意識して見ていないと、そういう町があることさえ分からない。
 町の結構が、あの石を守るため、できたとすれば、そのわけを聞きたいところだが、説明はないし、その伝承も漏れ聞こえていない。
 臍石だろうか。
 
   了

 



  


2023年5月20日

 

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