小説 川崎サイト

 

奇襲

 

 小高いところに本陣を構えている。しかし、正面は各隊が何段も陣を敷いているのでいいが、後ろ側は弱い。道などないのだから大軍が来るわけではないが、奇襲あるかもしれない。
 ただし、脅しのような。
 それで橋蔵はそこに配置された。ただの見張りだ。敵が来れば知らせに走ればいい。橋蔵はただの百姓。足軽として駆り出されている。
 だから、前面に出るよりも、この見張り役は楽。橋蔵を含め同村の三人で見張っている。悪い役ではない。しかし、奇襲に遭えばそこが最前線。一番危険な場所。
 しかし、念のために見張っているだけで、戦う必要はない。それよりも報告。こちらの方が大事だろう。
 橋蔵は小便に立ち、そのへんの草村に入ると、そこにも兵がいる。見かけない顔。しかし、背に同じ小旗を差しているので、これは味方だ。
「見張りか」橋蔵が声を掛ける。
 そこに四人ほど隠れていた。橋蔵の知らない足軽達。近在の村にもいそうにない顔ぶれ。
「常雇いか」
「いや、臨時だ」
 四人とも戦い慣れているように見えた。そういう面構えをしている。冷酷で冷たそうな。
「百姓か」
「違う。足軽が仕事だ」
「わいらも見張りで、ここに来ている。同じか」
「ああ、同じだ」
「四人しかおらんのけ」
「見張りなので、そんなものだ。仲間は本陣の前にいる。おそらく激戦になるだろう。それに雇われ兵は先鋒にされる」
「先頭か」
「真っ先に矢や弾が飛んでくる」
「減るだろ」
「仲間がな。しかし、そんなへまなことはしない。危なければ前に出ないし、いつでも逃げる」
「じゃ、ここだといいなあ」
「ああ、安全だ」
「一寸間隔が狭いので、見張る箇所を変えるよ」
「そうか、でも敵なんてこないよ。固まっていた方が安全だ。合流してもいい。何人だ」
「三人」
「合わせると七人か。そのほうがいい」
「じゃ、知らせてくる」
 橋蔵が立ち上がったとき、銃声が聞こえた。
「奇襲だ」
 橋蔵の仲間も気付いたようで、飛び出していた。その前に雇い兵四人もかけ出していた。その足の速さに驚くほど。
 七人で本陣の小山に登り、報告した。
 別の見張りからも報告があったらしく、既に知っているとか。
 そして襲ってきた敵は少数で、数人規模。鉄砲を一発撃った後、逃げ去ったらしい。
「ご苦労。見張りを続けるように」
 といわれ、七人は裏手にまた戻った。
 
   了

 



2023年5月30日

 

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