小説 川崎サイト

 

占い師

 

「何かいい話はないかね」
「役立つような。それとも儲かるような」
「役立つ話がいい。これを聞けば人生激変するとかね」
「じゃ、その話、聞いた人全員激変しまくりますなあ。色々な人がそれを聞き、そこら中で激変しまくり」
「だから、よくある話じゃなく、これは凄いと思うようなのがあれば話して下さい」
「もし、そんなものがあれば、人には話しませんよ。他の人が真似ますからね」
「あるんですか」
「ありません。あればこんなところで占いなどやってませんよ。屋根もないところでね」
「じゃ、ありふれた話でもいいです」
「それは皆さんご存じだ」
「そうなんですか」
「いい話は知っていても、実行出来ないから、同じこと」
「聞いただけで終わるんでしょうねえ」
「その時はいい気分になれますよ。激変したように。しかし、すぐに醒めます。長くは続かない。元の木阿弥になります。それなら元の木阿弥を磨いた方がよろしいかと」
「激変しますか」
「しません。しかし、少しは変わるでしょう。しかし、その程度の変わり方なら、普通に年取れば身につくようなこと」
「しかし、私も良い年になってますが、若い頃に比べて元気がない。昔のように色々なことをしなくなりましたよ。旅に出る回数も減りましたしね。まあ、落ち着いてきたのでしょうが」
「ほらほら、そうやって御自身で身に付けているじゃないですか」
「これがいいことなのですかね」
「それこそ身で感じたことなので、身につきますよ。修行の必要もないし、心掛けもいらない。だから、いい話も聞かなくてもよろしいかと」
「しかし、私、ためになる話、大好きなんですがねえ」
「そういうご趣味ですな」
「趣味なんですか」
「いいお話しを集めるのがお好きなんでしょ」
「はい、お好きです」
「まあ、占い師にそんなことを聞くよりも、何を占って欲しいのですか。雨が近いようなので、もう畳みますよ。お早い目に」
「占いは当たるかどうかを占って欲しいのです」
「あなた、変な趣味がありますねえ」
「どうなんですか」
「占いは当たりません」
「でも、あなた、占い師だ」
「我が身のことも占えない。こんなところで、占い師などやっていることなど、想像もできませんでした。まあ、その頃は占いをやってませんでしたので、占うことはできませんがね」
「じゃ、今はどうなんです。占えるでしょ。先のことを、あなたの」
「可能ですが、怖いので、やりません」
「あ、そう」
「あ、雨。じゃ、畳みます」
「はい」
 
   了


2023年5月31日

 

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