小説 川崎サイト

 

鬼道

 

 宮田藩主には力があり、家老達に任せず、大事なことは殿様が直接仕切っている。歴代の藩主の中では希な存在。
 その殿様の懐刀がいる。この人は側近で藩の重職には就いていない。実は、この側近が殿様に知恵を与えているようで、実際にはその側近が決め事をしているようなもの。
 その側近の家来に徳田善兵衛という武士がいる。実はその人が主人である側近に知恵を付けているようだ。
 だから、殿様が決めたと言っても、かなり下の方のまた者のまた者が仕切っているのだ。
 その家来、身分は低い。徳田家の家来と言っても二人しかない。徳田家が小さいためだ。殿様に仕える側近の家来なので。
 その徳田家の家来に下男がいる。ただし常雇いではなく、近郊の農家から通っている。
 実はその下僕が知恵を与えているのだ。その下僕の意見が上へ上へと上がり、殿様に達する。いかにも殿様の決め事のように見えるが、実は側近から出ている。その側近の家来の徳田の家来の下僕が発生源。
 しかし、そんな下僕がそれだけの知恵があり、祭りことが分かるはずはない。それにその素養もないようで、読み書きができる程度。
 その下僕が住んでいる村に、老婆がいる。ただの占い師。村巫女のようなもので、祈祷などもする。村に一人、そういうものがいた時代。祈祷で病を治したりするが、医者にかかるよりも安い。ただの気休めだが万病に効く。
 その老婆が下僕の主人から聞いた藩の懸案事項を話す。老婆は世間慣れをしているが、藩のことなど知らない。
 そのため、占いで決める。下僕はそれを聞き取り、上へ上へと上がる仕組み。
 だから、この藩の命運は、この老婆にかかっているのだ。
 実際にはその老婆が占うのではなく、孫娘が変わり占っている。まだ童だ。
 しかし、この藩、それで上手く回っている。藩主は名君と言われるほど。
 まるで卑弥呼時代だ。
 
   了


 


2023年6月14日

 

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