小説 川崎サイト

 

リアル

 

「リアルを見たのかね」
「はい」
「そこで終わってしまうだろう。もうその向こうはない。行き止まりだ。それ以上のものはもうないのだからな」
「それで、終わったような気になりました」
「先がないからな」
「はい、夢見た頃の方がよかったです」
「夢か。まあ、それもあるなあ」
「本物を見てしまうと、興ざめです」
「しかし、君の夢は、そのリアルを求めていたんだろ。到達点を」
「その近くまで行ってましたが、リアルには到達しません。夢ですから」
「しかし、その手前でもそれなりにリアルだったのじゃないかね」
「本当のそれではありませんが、それに近かったです」
「近付いていったんだ」
「はい」
「いくら近付いても到達できない。そこには無限と言うほど大袈裟ではないが、限りなく遠いところまで行ける。リアルの手前までな」
「でもリアルに行き着けないのですね」
「しかし、迫ることはできる。ただし迫りすぎるとリアルには負ける。それならリアルと変わらない」
「はい、リアルになると、もう駄目です」
「だから到達点近くでも駄目で、手前過ぎても駄目」
「じゃ、到達点はないのですか」
「程良い距離のところにある」
「リアルに限りなく近いところは逆に駄目なのですね」
「それならリアルの方がいいだろう」
「一寸お聞きしたいのですが」
「何かね」
「リアルは本当のものなのですか」
「リアルもまた夢と同じだと言いたいのかね」
「それははっきりと違います。だからそうは思いませんが、リアルだと思っているものが気になりまして」
「そこはほじくらない方がよろしい」
「リアルの向こうにもまだ何かあるのではないでしょうか」
「だから、そこを掘ると危なくなる。リアルとは現実。それはあるに越したことはない。そうでないと、君も消えてしまうよ」
「あ、はい」
 
   了

 


2023年6月17日

 

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