小説 川崎サイト

 

怪しい神社群

 

「このあたりにはややこしい神社があるから、あまり行かない方がいいよ」
「そういうのを探しているのですが、ありふれた神社しかありません。そのややこしい神社、どの辺ですか」
「聞いていなかったのかね。行かない方がいいってところを教えるわけがないだろう」
「そう言われると、気になります。まるで行って見てこいと誘われているようで」
「教えなくても分かるところにある。君はそう言うのを見付けに来たのだったら、すぐに見付かるだろう。しかし行かない方がいい。くどいようだがな」
「何があるのですか。何が祭られているのですか」
「ありふれた神様だよ」
「でも、ややこしいと」
「表向きはありふれた神様なんだが、それはカムフラージュ」
「裏で祭られているややこしい神様がいるのですね」
「最初は、その神様の神社だった。それが裏に回された」
「ありふれた神様にですね」
「そのややこしい神様を隠さないといけなかったんだろうねえ」
「じゃ、今はありふれた神様が祭られているのですね」
「しかしねえ、こんな山深い渓谷に、神社があることが怪しいだろ。村の神様じゃない。このあたりの地形とも関係している。そういう神様だ」
「地形」
「怪しい場所なんだ。だから神社に、そのややこしい神様を置いて、封じていたんだ」
「どんどん喋っていますが」
「あ、そうか。これは口を封じないとね」
「隠すとますます怪しくなりますねえ」
「この道沿いを行く気かね」
「はい、他に道はありませんから」
「じゃ、ずっと直進しなさい。枝道が出ているが気にしないで。そしてずっと進むと、戻ってくる」
「はっ」
「だから、その山の麓を一周して戻ってくるだけの道なんだ。この道はな」
「じゃ、迷わなくていいですね。この道沿いにはその怪しい神社はないのですね」
「そうだ。だから逸れてはいかん。枝道に入ってはいかん」
「じゃ、怪しい神社は枝道に入れば見付かるのですね」
「そんなことは言っていない。枝道は多い」
「その中の一つですね」
「どの枝道に入っても、その行き止まりに社がある」
「じゃ、空くじなし」
「君なら、絶対に枝道に入るはず。だから、それを止めているんだ」
「教えてますよ」
「ややこしく、怪しい神社がどの枝道の先にもある。いずれもその山に打ち込んだ複数の楔なんじゃ」
「杭ですか」
「これで、山の化け物を封じておる」
「もの凄く説明していますよ。ますます興味が湧きました。その山ですね。神社ではなく、怪しいものの正体は」
「山は山だ。山は怪しくない」
「じゃ、山の中に何かいるのですね。化け物が。山の地下とかに」
「あの山はな、鼓山とも別名があるほど。足音が響く」
「もう最深部の説明に入っているのですね」
「そうかな」
「さらに、その先の深い話があれば、聞かせて下さい。山の中に空洞があり、そこに何かが埋められている。その何かとは分かりますか」
「化け物の住穴じゃ。そこで眠っておる。起こしてはいけない」
「起きないように、怪しい神社が山を取り囲んでいるのですね。これが全体像ですか」
「あ、うっかり、そこまで喋ってしまったか」
「有り難うございました。じゃ、行って見てきます」
「枝道に入るでないぞ。封印を壊してはならぬぞ」
「はいはい」
 
   了

 


2023年6月19日

 

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