小説 川崎サイト

 

信念

 

「信念を持っておる者と、持っておらぬ者とでは生き方が違う」
「信念ですか」
「そうじゃ」
「それはどうして獲得できるのですか」
「獲得」
「はい、信念の得方を教えて下さい」
「それが難しい」
「じゃ、簡単には得られないのですね」
「しいて言えば、信じられるか信じられないかじゃな」
「何を」
「色々なことでじゃ」
「信念とは、信じることなのですね」
「違う、自分の想いを信じること」
「ああ、自分を信じることなのですか」
「違う。自分の中のある思いじゃ」
「信じるにはどうすれば良いのですか」
「これがまた難しい」
「できれば信じたいですねえ」
「そうじゃろ。だから信じたいと思うことなのじゃ。これは信じたいとね。その方が都合が良いからのう」
「じゃ、自分の都合の良いものを信じるのですね」
「動じぬようにな」
「何が動くのですか」
「心がじゃ」
「ああ、信じていても、信じにくいことがありますし、裏切られると、もう信じたくなくなりますから」
「それでも信じる。だから念のために、それを信念という」
「念のため」
「より強調してじゃ」
「大変ですねえ。信念を持つのも」
「しかしのう、頑固になる。強い信念の持ち主はな。その代わり安定しておる。信念のない人間はぐらぐらしておる。フラフラとな。だから、生き方が違ってくると言っておる」
「どう生きても似たようなものでしょ」
「違う」
「あ、そうですね。似ていません。違いがあります。でも信念のない人間でもそれぞれ違いが出ますよね」
「何が言いたい」
「お師匠さんは信念を持つことを信念としておられるのでしょ」
「それがなあ、なかなか難しゅうてのう」
「弱気にならないで下さい。信念を持って下さい」
「信念なんて脆いものじゃ。まあ、それを言えばおしまいじゃがな」
「しかし、私の名前、何とかなりませんか。信念でしょ」
「いい名じゃないか。わしが付けた」
「信念があるように思われてしまいます」
「信念とはそんなものじゃ」
「あ、はい」
 
   了


 


2023年6月21日

 

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