小説 川崎サイト

 

額の汗

 

 暑い日だった。よくあることで、異常なことではない。この時期はこんな暑さがあることを知っている。
 別に思い出さなくても、そんなものだと感じている。しかし、それが分かっていても、暑さは生理的に来る。汗とか息とかに。そして動きも一寸おかしい。早かったり遅かったりする。不安定だ。
 早く動くときは焼け糞で動いているようなもの。どうせ暑苦しいのだから、どう動こうと暑いため。そして無理に早く動いたりする。これで気が済むこともある。
 下村は、また暑い季節が来たかと毎度の事ながら、季節の巡りを実感する。順番に回ってくるので、暑いのが回って来たかと。
 しかし、感慨に耽っている場合ではないので、急ぎの仕事やり始める。そしていつもよりも急いで。
 これはさっさと済ませて暑苦しい作業を早く終えたいため。
 暑いためか、島田は食欲も落ちている。といっても半分になるわけではなく、腹八分の八分ぐらいで終わる。それ以上食べたくない。満腹ではないが、もう欲しくなくなる。
 これは食べすぎにならないのでいいが、腹がすくのが早い。すいている状態は食欲があるので、食べやすいが、途中でガタンと落ちる。
 お茶漬けがいいかもしれない。塩昆布の。これなら塩気で一気に食べられるだろう。
 仕事の手は動いているが、頭の中で動いているのは、そういうことばかり。集中できないが、していないときの方が上手くいく。あまり考えなくても、手に任せておいた方が上手くいく。
 大層なことを考えるよりも、どうでもいいような身近なことを思うようだ。その方が平和かもしれない。妙な妄想よりも。
 身近なことは着地点がある。妄想にはそれがない。
 また、これもどうでもいいことだが、去年の今頃は何をしていたのかを思い出す。しかし、殆ど忘れている。
 無事に去年も夏を乗り越えたので、大したことは起こっていなかったのだろう。おそらく今と同じようなことをして過ごしていたはず。
 これは何をしたかよりも、場所で覚えていたりする。背景の方だ。
 額に汗が浮かびだした。本格的な暑さが来ていることが分かる。この汗が出だすと真夏だと。
 こういう汗が出なくなると、下村も終わりだろう。
 
   了


 


2023年6月22日

 

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