小説 川崎サイト

 

茂吉

 

 茂吉は萩原家の足軽だが、百姓だ。いくさのときだけ萩原家に雇われる。萩原家は身分の低い武家。しかし、大名家から領地をもらえる身分。ただ、僻地にある一ヶ村。
 茂吉は戦があるので、呼び出されるが、防具も槍もない。弓も。いずれも萩原家が用意している。
 当主の他に兄弟がおり、それが家臣として仕えている。身内以外の家来はいない。それほどの身分ではないためだ。ただ常雇いの足軽や小者はいる。これは当主の共などに付いてくるが、一人だ。
 いくさのときは萩原家が兵を準備する。主君の大名家ではない。そのために領地をもらっている。そこから年貢などを取れるし、百姓を兵として集められる。そのために与えた領地なのだ。
 今回は茂吉と年長の竹馬の友。いずれも普段は親の田畑を手伝っている。次男坊三男坊なのだ。だから村から兵を出すときは、彼らが出ていく。ただし、村が小さいので、余力はなく、最大五人程まで。今回は二人。
 萩原家はこの村の農園主のようなもの。小さいながらも領主なのだ。しかし、村とは関係のない人で、偶然、この村を与えられただけなので、馴染みがない。それに村の領主はよく変わるので、あまり親しくはないし、萩原家も、いつ何処へ行くのか分からない。出世すれば、別のところで数ヶ村をもらえるかもしれない。
 萩原家も小さいが、村も小さい。しかし、萩原家は、城下ではなく、この村に住んでいる。庄屋のような村の代表はいるのだが、力はない。
 出陣命令が出たので、萩原は兵を募り、村から出陣した。騎馬は萩原当主一人だけで、その後から兄弟や、萩原家に仕える家来や小者、そして動員した足軽の茂助ともう一人だけ。
 これでは一隊と呼べる規模ではないが、城下で編成され、その配下に入る。萩原はただの一兵卒のようなものだが、一応何人かは連れてきている。
 いざ合戦となると、騎馬の萩原当主の周りに茂平達が寄り添い、萩原の手足となって戦うのだが、大事な兄弟や家来、そして村から連れてきた足軽を失いたくない。
 無理をして戦えば、手柄を立て、出世するかもしれないが、失敗したとき、被害が出る。だから、萩原の上にいる武将の指示には従うが、積極的ではない。その武将も似たようなもので、萩原よりも身分は高いが、事情は似ている。
 さらにその上にいる武将がおり、これで一部隊の規模になっている。侍大将レベルの。この人にも癖があり、さらにその上の武将、これはもう重臣クラスだが、いくさ下手もいる。
 今回の戦い、萩原や茂吉のいる部隊はあまり活躍せず、移動しただけで終わった。
 茂吉はほっとしたが、苦戦になるような戦いなら、足軽として出て行かなかっただろう。
 勝ちそうな戦いなら、足軽も集まりも良い。今回は威嚇的な出兵で、手柄を立てる機会もないので、茂吉の村からは二人しか集まらなかったようだ。
 
   了

 



 


2023年6月28日

 

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