小説 川崎サイト

 

現実のURL

 

「それで現実を知ったと言えるのかあー」
 カアーカアーとカラスが鳴いている。
「外に出て本物の現実を見てくるのだ」
「外って、どこですか」
「表だ」
「家の中じゃなく、その意味での外ですね」
「そうじゃ」
 青年は外に出て、そのへんを一周して戻ってきた」
「どうじゃ、しかと現実を見たか」
「はい、見てきましたが、いつも見てますが」
「どうじゃった」
「空き地が野原になっていました。たまに前を通るのですが、中に入りました」
「そうそう。現実的動きと言うべきじゃな。そういうことじゃ。それでどうじゃった」
「黄色い花が咲いていましたが、花の名は知りません」
「現実とはそういうものじゃー」
 ジャージャーと、何かの音がする。水道を止めていないのか、ジャージャーと蛇口から。
「しかし、僕がよくやるゲームでは、咲いている花は分かります。探索というのを押せば、何の花で、どの季節に咲くのか、また花言葉があれば、それも書かれています。ゲームの野原の方が詳しいですよ」
「だから、それらは仕込まれたことじゃー」
 また蛇口から水が。
「でも、何も知らない私が、その花について知ることがその場でできましたよ。知見を広めました。また、そこに飛んでくる虫も見ました」
「先ほど言った野原でもいるじゃろ」
「見かけませんでした。だからゲームの方が豊かなんじゃないのですか」
「現実を見よ。その目で見よ。そして足で動け。足で探せ。汗をかけ」
「はい、そのようにしますが、でも原っぱをウロウロしていると、近所の人が見ていました。主婦が二人で、ひそひそと、何か喋ってました。きっと私のことでしょう。そんなところに入り込んで、何をしているんでしょうねとかだと思うのですが」
「それが現実じゃ」
「だから、そんなのはいつも見ていますよ」
「そこではなく、実際のものに接せよと言っておる。ただの知識だけではなく」
「夢を見て寝ているとき以外は現実のものに接していますよ」
「では、その先ほどの花が出てくるゲームはどうなのじゃ。あれは現実の野原か」
「違いますが、現実よりも詳しいです」
「それは現実ではない」
「でも私の中ではゲームも現実ですが」
「どんなゲームなんじゃ。野原が出てくる野原ゲームか。タイトルを教えてくれ」
「ネット上にありますよ。無料です」
「URLを教えてくれ」
「長いので、メールで送ります」
「そうしなさい」
「あ、はい」
 
   了



 


2023年6月30日

 

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