小説 川崎サイト

 

遠ざける

 

 以前なら近くにあったのだが、今では遠くのものとなっていたりする。
 当時なら簡単に手が届く距離だったが、今はそこまで行くのが大層。しかし、そのものが変わったわけではなく、位置も場所も同じ。
 だからそのものが遠ざかったのではなく、前田が離れたのだろう。しかし、その価値は今も変わらないので、その変化はない。
 ただ、近くのものが増えたりした関係で、遠くへ行ったように感じたのかもしれない。また、後回しにしていたこともある。それだけ大事にしており、今もそれは変わらないが、それに似たようなものが出てきたので、それで機会が減ったのかもしれない。
 一つのものが出てきて、そして終わる。だから、大事なものは終わらせたくない。もう少し取っておきたい。
 そのうち、とうがたち、もう価値がなくなっているかもしれない。幸いそのものはまだ値打ちがある。それだけのものを持ち続けているためだ。
 前田が変わると、そのものも変わるが、あまり変わっていない。前田もそれなりに変化し、方向性も変わるのだが、まだ、それは大丈夫。むしろ、以前よりも値打ちがあるように見えてきたりする。
 しかし、遠ざかってしまった。あまりにも大事にするため、そうなったのかもしれない。そのため、それは今では象徴的なものになっている。
 これはそのままにしておいた方が、そして遠ざけていた方がいいのではないか。
 それに類するものが他にもあるが、それほど遠くのものではない。やや遠ざかっているが、終わらせたくないのだろう。だから似ている。
 たとえば行きたかった場所。行ってしまえばそれで終わる。終わるのが嫌なので、行かない。しかし、行きたい場所に行かないというのも妙だが。
 
   了



 


2023年7月13日

 

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