小説 川崎サイト

 

日々平穏

 

 そこを越えると、向こう側へ行く。そこを越えなくても行けるのだが、目印になる。あちらとこちらという関係ではなく、続いている。
 その区切りを付けているのは田中自身。その方が分かりやすいため。しかし、意識していないと、そこを越えたのかどうかも分からないが、あちら側へ出たことは分かる。そこがこちら側になるのだが、これは全部繋がっているので、ある方向へ向かっているだけ。
 つまり目的地に。その目的に到着しても、その先がある。しかし、この目的地、区切りとしては大きく、がらりと様子が変わる。
 先ほどまでとは違う世界に入った感じ。さらにその先もあり、さらにさらにと続いている。いずれも区切りがある。
 舞台が大きく変わったり、幕が変わるのだろう。そして、それで一日分となると、翌日、同じことが繰り返されるが、演者や舞台はそれなりに変化している。昨日そっくりの今日ではなく、一日分の変化がある。その程度なら分からないのだが、翌日いつもの舞台ではなく、経験したことのない場になっていることもある。
 当然演者も、これまでの田中ではなく、大きく変化していると、演じ方も違っていたりする。
 そうして一日がひと月となり、一年になり、その先へ先へと向かっているのだが、向かう気がなくても、一日がやってくる。一年も。やがて、年が来なくなるようになるのだが。
 その次へその次へと進んでいるのだが、いつか来た道もあり、昔に戻ることもある。しかし、当時の昔ではないので、過去へワープしたわけではない。
 さらに未来へワープしすぎることもある。これはそのうち戻される。これは田中にとり、まだ時期が早すぎたのだろう。今ではなく、もう少し先でないと無理なような。
 しかし、滑らかに変化していくとは限らない。一段高いところに移らないといけなかったりする。段差があり、厳しいところもある。流石に激変は滅多にないが、昨日と今日とでは大きく違うような状態になっていることもある。良いことでも悪いことでも。
 一歩先、ここを越えれば、あちら側へ出る。しかし、繋がっており、あちらもこちらもそれほど変わらない。田中にとっての日々平穏とはそのレベルだろう。これは崩されるのはいうまでもない。
 
   了


 


2023年7月17日

 

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