小説 川崎サイト

 

早盆

 

「暑いときはどうしておられるのですか」
「仲間の中には行水をやる僧もおる」
「修行ですか」
「シャワーのようなもの」
「でも滝行なんでしょ」
「滝と言うほどではない。竹筒からチョロチョロ水が落ちてくる程度」
「和尚様はどうしておられるのですか」
「わしか」
「はい、暑いとき、我慢が出来なくなったとき」
「暑いものを食べたり飲んだりして汗をかく」
「ああ、それで涼しくなると」
「シャワーのようなものじゃな。汗は拭わない。もったいないのでな。折角出たのだから、その効果をしばらくは楽しみたい」
「額からも汗が出るでしょ」
「目に入らんようにするがな。そのため、眉毛がある。これは堤防に植えられた柳の木のようなもの。それが堰き止めてくれる」
「汗をかいたまま放置するのですか」
「衣服も濡れるがな。しばらくは涼しい。先ほどの暑さは治まる。乾けば、また暑くなるが。これは塗れ手ぬぐい要らずじゃ。衣服がそれをやってくれる」
「汗臭いでしょ」
「その臭いで体調も分かる。しかし、それほど匂わん。まあ、自分の息の臭いのようなものなのでな。気にはならん。人が嗅ぐと別じゃろうが」
「それが暑いときの過ごし方ですか」
「水と風がいい」
「水は自前ですね」
「いい風が入って来れば御の字じゃが、そうはいかん。まあ扇子もあるので、何とかなるがな」
「心頭滅却すれば、火もまた涼しというわけにはいきませんか」
「無理じゃ。気持ちではな」
「はい」
「それに何も思わず何も考えずでは仕事はできん」
「もうじきお盆で忙しそうですからね」
「早盆を薦めておる。早い目にやる方が、分散するのでいい」
「じゃ、遅盆もありですか」
「それはない。盆が終わってからではな」
「はい、了解しました」
 
   了


 
 


2023年7月29日

 

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