小説 川崎サイト

 

昼寝の続き

 

 夏の昼間。高坂は昼寝をしているとき、電話が鳴った。セミの声ではなく、電話だとはっきりと分かる。
 ただ、寝ていたので頭はそれほどはっきりとはしていないが、これは夢の続きだとは思えない。そう思う理由がないため。
 しかし、もう少し寝ていたい。真夏の昼寝。これは寝付けないときがあり、横になるだけ。しかし、その日は上手く寝付けたようで、電話が鳴るまで寝ていたことに気付かなかったほど。
 だが寝足りなさがあり、電話を無視しようかと思ったが、思い当たることがある。この日、この時間帯の電話。
 それは旧友が夏休みで帰って来そうな日。そう決め付けているのだ。絶対に出ないといけない電話があるとすれば、それ。
 殆どの電話はセールス系で、これは出なくていい。色々とゴタクを聞いている暇はないし、徐々に腹が立ってくるからだ。
 貴重な時間を、そんなことで使いたくない。受話器を取るのも一仕事、一手間なのだ。どうせ断るセールス電話の対応など無駄な話。向こうから良い話が来るわけはない。
 それで、今の電話は旧友からかもしれないと思うと、これは取らないといけない。年に一度程度しか合っていないが、以前は近所に住む親しい友。つまり親友。その関係が長く続いているが、もう現役の親友ではなく、旧友になっている。
 それでも、旧友からなら、戻ってきたという連絡で、これから合おうという話になる。これは毎年決まっている。同じパターンだ。
 しかし、暑い中、その親友と合うと更に暑苦しくなる。熱い話になることが分かっているためだ。一年分のネタを旧友は溜め込んでいるはずなので、長話になり、また話題も多い。
 オールナイトで何本も映画を見るようなもの。高坂はもうそんな体力はない。暇はあるし、旧友にも合いたいのだが。
 電話に出ると、それが始まるだろう。暑い日中、昼寝がいい。暑苦しいことをこれからやるとなると、ぞっとするが、それは今まで寝ていたためだろう。歓談は楽しいし、元気も出る。
 それに、今、受話器を取らないと、旧友の予定も狂うだろう。別の日に合ってもいいのだが、タイミングとしては、戻ってきた瞬間、合うのがいい。
 旧友は実家に帰るはずだが、その前に電話してくる。家に戻ってからでは抜け出しにくいらしい。
 そこまで分かっているので、高坂は受話器を取った。
 そして、最初の一声を聞いた瞬間、受話器をガチャンと置いた。
 そして、昼寝の続きに戻った。
 
   了

 



 
 


2023年8月1日

 

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